若い経営者に伝えたいこと

――「原理原則」は一見地味で、業績を劇的に上げる起爆剤という印象はありませんね。

 業績が一瞬上がったとしても、継続できなければ意味がありません。業績を継続していくうえで土台となるのが「原理原則」なのです。

 最近、『経営・リーダーシップ実学』というDVDと書籍のセットを出したんですよ。50年以上にわたる私のビジネス経験をもとに体系化したビジネスの「原理原則」を、講演会でお話ししたときの模様を収めたものです。DVDのかたちにまとめたのは、特に若い経営者の方にこの「原理原則」の重要性を認識してほしいという思いがあってのことです。

――ほかにどんなことをお伝えしたいですか?

 私は自身の経験を通して得た4つのことを伝えていきたいと考えていますが、これは生涯現役でありたいと思う自分自身への戒めでもあります。

 1つ目は、先ほどもお話しした「原理原則」の重要性。

 2つ目は、金儲けだけでなく志を持ってほしいということです。つまり大義ですね。自分が経営者になる、商品を売る。それをどんな思いでやっているのかが大切です。カッコつけていると笑われるかもしれませんが、やはり志がなければ。経営者が金儲けや利益追求に溺れている会社は、長続きしませんね。

――利益よりも志ですか?

 もちろん、利益が出なければ経営が成り立ちませんから、会社にとって利益が大事なのは当然のことなんです。しかし利益、それも短期利益だけをひたすら追求しているような会社はいつか潰れます。

 会社における志を表したものが理念、つまりクレードですね。私はジョンソン・エンド・ジョンソンで働いていたときにクレードの重要性を身にしみて感じました。

――ジョンソン・エンド・ジョンソンの『我が信条』ですね。

『我が信条』は、多くの企業から手本とされるような素晴らしいクレードです。私自身、同社の社長を務めていた時代、大きな決断を迫られたときにはこのクレードに何度も助けられました。

――新さんを支えたのも志とクレードだということですか?

 そうです。

 私は何度か転職をしています。私が若かったころはまだ、日本では転職というと「古巣への裏切り行為」というか、罪悪感を伴うものという意識が強かったのですが、私は自己実現のため、自分の抱いた夢を叶えるために転職に踏み切りました。いまの環境よりも、新しい環境のほうが自己実現しやすいだろうと思えたから転職を選んだわけです。簡単な決断ではありませんでした。けれど決断できたのは、やはり志があったからだと思います。