黒田日銀が「異次元緩和」とも言われる量的緩和を発表してから2ヵ月半が経過した。公式には認めていないものの、政府日銀の当初の狙い通りに円安が進み、それにつれて株式も大幅高となっている。そして、当初大混乱していた国債市場もやや落ち着きを取り戻しつつある。

 しかし、この「異次元緩和」は、銀行のALM(資産負債総合管理)の「Asset」、つまり資産運用戦略に大きな影響を与えることになる。なぜならば、後述するように、銀行の預貸率(預金に占める貸出の割合)は大幅に低下しており、常に「Liability」、つまり負債(預金)超過の状態にあり、その運用こそが経営課題だからだ。

量的緩和の狙いは銀行のリスクテーク

 今般の日銀の「異次元緩和」の大きな狙いの一つは、銀行がよりリスクを取って融資を増加させるなど、銀行の資産運用戦略を積極化させることであった。銀行は、これまで余資の大半を国債購入に振り向けてきた。

 しかし、長期国債の利回りが一旦大幅低下し、預金保険料や人件費等の経費を織り込んだ実効資金調達コストを割り込んでしまう「逆ザヤ」の状況になったかと思えば、その後、一時は0.3%台まで低下した10年物国債利回りが0.8%(5月13日現在)程度まで反発するなど、今度は予期せぬ金利上昇(国債価格下落)リスクも高まっており、いずれも銀行にとっては国債保有をためらわせる要因になっている。

 無論、20年国債を買えば、まだ利回りは1.6%程度あり、当面の利ザヤは安定的に取れるが、これから2%ものインフレを実現させようという政策が継続することを考えれば、おいそれと将来の価格下落(金利上昇)リスクは取れない。購入する国債の期間が長いほど、将来金利が上昇に転じた場合の価格下落リスクが一層大きくなるからだ。

 したがって、今回の日銀の量的緩和は、こういう国債価格の乱高下を予期していたかどうかは別にして、結果的には、銀行に国債保有を縮小させ、他の資産、特に融資増大という形での運用を促すという所期の目的を達していることになる。