連載第4回「日本の財政は持続可能か」では、安倍政権のもと、黒田日銀が多額の国債買い入れによる「異次元緩和」に踏み出した一方で、わが国の財政運営がどれほど大きなリスクにさらされているのかについて述べた。

しかしながら、低金利状態が長期化している現在、「財政運営のリスク」といっても、ピンとこない読者も多かろう。そこで今回は、財政の持続可能性を市場から疑われ、市場金利が一度上昇を始めたらどうなるのかについて、欧州各国の近年の経験をたどりながらみてみよう。

財政危機型のイールド・カーブとは

 2012年3~4月、債務危機のただ中にあったギリシャが「PSI」(注1) 、および、それに応じなかった債権者に対しては、「集団行動条項」(注2) 適用による強制的な債務カットに踏み切り、国債のデフォルト(債務不履行)を引き起こしたことは記憶に新しい。

 このようなギリシャのデフォルトは、主要通貨が変動相場制に移行し、国際金融市場がこれほどまでに大きく発展したもとで、先進国としては初めての経験であった(注3) 。なお、今回の欧州債務危機においては、ギリシャのような実際のデフォルトまでには至らずとも、市場の信認を失って金利上昇に見舞われ、自力での財政運営が困難となったり、困難となりかかったケースが何ヵ国も存在した。

 そのきっかけは様々だ。例えばギリシャの場合は、財政指標の粉飾発覚がそもそもの発端だ。アイルランドの場合は、リーマン・ショックにより国内の不動産バブルが崩壊し、業容を巨大化させていた国内金融機関の経営が急速に悪化、これを国家財政が支えきれなくなった。イタリアは、国債残高規模が元来ギリシャに次いで大きかったところ、政治的な不安定要因から危機が伝染する結果となった。

(注1)Private Sector Involvement(民間セクター関与)。ギリシャ国債を保有していた民間債権者による自発的な債権放棄。
(注2) 自発的な債権放棄に応じない債権者がいる場合、全体の一定割合の債権者が同意すれば、不同意の債権者に対しても債権カットを強制できる、とする約定。
(注3) 現在の先進国で、その財政運営が破たんした、ギリシャの直前の事例としては、1946年の日本の国内デフォルト(預金封鎖、新円切り替え)にまでさかのぼることになる。