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森達也 リアル共同幻想論

日常に蔓延する「特別警戒」

森 達也 [テレビディレクター、映画監督、作家]
【第4回】 2007年12月28日
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 所用があって大手町に行った。いわば日本のビジネス街の最前線。通りには巨大なビルが幾つもそびえている。歩き馴れていなければ道に迷う。何しろ僕は自他共に認める方向音痴だ。決して誇張するわけではなく、週に1回はどこかで道に迷っている。

 そんなことを考えながら歩いていたら、やっぱり道に迷った。地図を片手にぐるぐると同じような場所を行っては戻りながら、ふとあることに気がついた。ほとんどのビルのエントランスにあたる場所に、ほぼ必ずといっていいほどに、同じフレーズが掲示されている。

 ただし掲示の仕方は様々。紙にマジックで書いて玄関の横の大きなガラスに貼りつけている場合もあれば、印字した紙をサインボードに貼って自動ドアの横に置いているビルもある。でも記載されているフレーズは、まるで判で押したようにほぼ同じ。

 「特別警戒実施中」

 僕は貼り紙の前でしばらく考え込む。よく見ると、昨日今日貼られたわけではないようだ。紙の余白の部分が淡い茶色に変質している。つまりこのフレーズは、もう何ヵ月も(もしかしたら何年も)前に、このビルのエントランスに貼られ、その後に雨や風や日の光にさらされ続けてきたということになる。

 「特別警戒実施中」のフレーズの意味は、「特別な警戒を実施していますよ」ということになる(書きだすまでもないけれど)。でも何ヵ月(あるいは何年)もこの貼り紙が同じ場所に貼られているのなら、それは「特別」ではなく、「日常」を意味するはずだ。実際にこのビルにオフィスがある人たちは、この「特別警戒実施中」のフレーズを毎日横目で眺めながら、通勤しているのだろう。

東京中に蔓延する「特別」と「警戒」

 明らかな論理矛盾。慢性化した特別などあり得ない。でも今、僕の目の前にそれはある。それも1つや2つではなく、ビルのほとんどにある。大手町だけではない。東京中の大きなビルのエントランスには、このサインが掲示されていることがとても多い。

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森 達也 [テレビディレクター、映画監督、作家]

1956年生まれ。テレビディレクター、映画監督、作家。ドキュメンタリー映画『A』『A2』で大きな評価を受ける。著書に『東京番外地』など多数。


森達也 リアル共同幻想論

テレビディレクター、映画監督、作家として活躍中の森達也氏による社会派コラム。社会問題から時事テーマまで、独自の視点で鋭く斬る!

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