この田園調布の話は、相続税の悲劇の典型例ですが、似たような話はいくらでもありました。

 相続税を支払うために住居を手放したり、店舗や事業所を手放したりすることになり、真面目に働いてきた人から最低限の生活すら奪ってしまうのです。さらにノイローゼや自殺に追い込まれるというありさまです。

相続税に関心が薄いのも当然だけれど……

 相続税が払えず、遅すぎた相続税対策をした人もいました。区役所、税務署、国税局などになんとかならないかかけ合ってみたのですが、すべて徒労に終わっています。また総理大臣などに陳情書を送った人もいましたが、返事すらくるはずもありません。

 お役人の立場からすれば、「相続税法にしたがって税金を納めてもらうしかありません」ということでしょう。こうしたケースに、政治は臨機応変に対応してくれません。自分の財産は自分で守るしかないのです。

 子や孫に財産を残そうとしても、相続税に対する知識のなさに妨げられてしまうことが多いのです。無理もありません。所得税であれば、毎月の源泉徴収とか、毎年の確定申告でなじみがあります。

 しかし、相続税は一生に一度だけの問題で、ふだんのつきあいがありません。これでは、相続税に関心が薄くなるのもしかたありません。しかし、よく考えてみてください。

 ある程度の財産があると、相続税の金額は所得税とはケタが違います。毎年100万円の所得税を払っているとします。1年に100万円の所得税というとかなりの負担であるはずです。

 毎年100万円の所得税を、30年間払い続けると3000万円になります。これは大変な金額に違いありません。しかし、都心にふつうの家を一軒持っているだけで、このくらいの相続税は、軽くかかってしまいます。相続税が、いかに大変な税金かわかると思います。