諭吉が政治に関与しなかった理由
「やはり熱心になれない分野だから」

 クロスボーダーな体験を求めて行動すべき、と書いておきながらブレーキをかけるようですが、新たな知識、新たな経験、新たな可能性、新しい技術を追い求める際にも、おのずと必要な方針はあるでしょう。

 その一つは、皆さん自身がその分野に「熱を持てるか」ということだと思います。諭吉は世界に広く知識を求めた人物として、当時から政府に出仕することを盛んに勧める人が大勢いました。知遇を得たアメリカ人などからも、何度も勧められたと自伝に書いています。

 諭吉はさまざまな理由を書いていますが、旧幕府への忠誠ということを別として、教育や文明発展の分野に強い関心があり、逆に政治には「熱心でない」のが最大の理由だと述べています。

 クロスボーダーな経験を積むことも、新しい発想や技術に出会うことも、それなりの行動力、エネルギーが必要です。それらの壁を乗り越えてまで、その分野に熱があるか。

 諭吉は自分自身は政治の下戸であり、だからこそ政治には近づかなかったと語る一方で、自分が熱意をもって取り組める分野には、一生涯破格の行動力を発揮しています。

「好き」を仕事にする時代と言われます。しかし「好き」を本当の仕事にするためには、デスクに座り何かを待っていては絶対に無理でしょう。やりたくない仕事でも給与のためにするのとは、別次元の行動力・行動量が必要不可欠なはずです。

 福沢諭吉という人物が偉大な理由も、自らが熱心な分野において破格の行動力を発揮し、いくつもの境界線を越えるクロスボーダーな体験を積み重ねたからだと推測できるのです。

次回(最終回)は5月30日更新予定です。


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