試行錯誤のなかで組織群を連動させる
非営利的な株式会社

企業と非営利組織を繋いで社会的な価値を生み出す <br />グランマの仕事に目的工学は有効ですか?<br />――対談:本村拓人×紺野登(前編)紺野登(こんの・のぼる) 
多摩大学大学院教授、ならびにKIRO(知識イノベーション研究所)代表。京都工芸繊維大学新世代オフィス研究センター(NEO)特任教授、東京大学i.schoolエグゼクティブ・フェロー。その他大手設計事務所のアドバイザーなどをつとめる。早稲田大学理工学部建築学科卒業。博士(経営情報学)。組織や社会の知識生態学(ナレッジエコロジー)をテーマに、リーダーシップ教育、組織変革、研究所などのワークプレイス・デザイン、都市開発プロジェクトなどの実務にかかわる。

紺野 グランマは株式会社ですね。営利企業の形態である株式会社にした理由は特にあるんですか?

本村 そこはとても悩ましくて、形態的には株式会社なのですが、やっていることは非営利的です。ですから、自分たちとしては営利と非営利の中間にいるような感覚でいますが、まず、こういう組織を定義づける枠が現状では存在しません。

 ではなぜ、営利とも非営利ともつかない組織でいる必要があるのかと言いますと、僕らがパートナーシップを組む相手が両方だからです。たとえば今、マレーシアの科学技術省直下にあるイノベーション財団の方と知り合い、一緒に活動していこうと話し合っていますが、そうした財団は非営利ですから利益をあげることを目的として動いていません。資金調達でパートナーシップを組むことの多いマイクロ・ファイナンスなどの金融機関の多くも獲得した利益はすぐに事業に再投資されます。

 一方で、途上国に技術などを提供してくれる日本企業は営利組織ですから、彼らとの契約は「月にいくら売れたらそのうちの何パーセントを手数料として支払う」などの金額交渉がメインになります。つまり、営利と非営利では組織の成り立ちに関係し、そもそものインセンティブが違うのです。

 双方が話し合いをしようとする時、このインセンティブの違いはかなり大きくて、なかなか言葉が通じません。そこで、僕らのような第三者機関が通訳として間に入ってコミュニケーションを円滑につないでいく。これは実際にやろうとするとかなり難しく、僕らもまだ明確なソリューションを持っている訳ではありません。日々、試行錯誤しながら進んでいるところです。

紺野 具体的には、どんなところが難しいと感じますか?日本では目に見えるプロダクトの価値は認めるけれども、目に見えない関係性のネットワークを作る行為の価値はなかなか認めない。そのために、本村さんたちも苦労されているのではないでしょうか。

本村 対企業で言いますと、どの窓口に行くべきか、の選択がまず難しいと感じます。僕らが実際にパートナーシップを組む相手で言えば、多いのはR&D部門とマーケティング部門、それとCSR関係部門になりますが、なかでも話が通りやすいのはマーケティング担当者でしょうか。個別のセグメントうんぬんではなく、「ビジネス全体の仕組みを新たに考え出さないといけない」と実感されている方が多いと思います。

 そこからさらに具体的なプロダクトを作りましょうということになると、もっと難しくなります。たとえば、20ドルの懐中電灯があったとして、新興国ではそれを15ドルで売りたい。その際に、20ドルのものをコストダウンして15ドルにするか、新たにゼロから積み上げていって15ドルの価値を作るか、という2つの選択肢がある訳ですが、後者を実行しようとすると、各企業が持つブランドの要としての品質管理費はなかなか削減することができません。その他にも大きな壁にぶつかります。

 壁の1つは物理的なセクショナリズムです。新たに15ドルの価値を作るには、資材調達から販売までのバリューチェーンそのものを見直さないといけないのですが、各部署間での連携の弱さ、途上国市場でのビジネス開発の知識のギャップなどが足枷となり、なかなかスムーズにプロジェクトが進みません。

 もう1つの壁は、心理的なものです。社内の思考そのものがセクションによって区分けされてしまっているため、自分が関係する事業以外のことは考えないクセが身に付いてしまっている。僕らのやろうとしていることを実現しようとすると、そうした壁の1つひとつを壊しながら関係部署を巻き込んで行くことが必要になりますが、それは今、最も必要なことであると同時に難しいことだとも感じています。