飛田も無視できない値下げ競争の実態

開沼 スカウトについてもうかがわせてください。スカウトとしてはやっぱり「うちの店に入ってもらいたい」と考えると思いますが、飛田は有名なこともあり、それで女の子が敬遠してしまう場合はどうするんですか?

杉坂 何をしたいのか、本番はできるのか、飛田がいいのか松島がいいのか、ヘルスがいいのかソープがいいのか。飛田で店をやってるときは飛田しかダメですけど、スカウトになれば自由はききます。「飛田はシャワーがないからイヤです。でも本番はできます」と言われたら、松島新地に案内できるんですよ。そういう意味ではスカウトのほうがラクですよね。

 飛田でやっていた頃は、「飛田はイヤだ」という理由に対して、「それはデメリットに見えるけど、全部メリットなんだよ」という言い方を結構してました。「自分が納得したら来たらいいよ、ただ、誤解だけはせんといてほしいから説明するね」という話し方です。そうすると話を聞いてくれるんですよ。絶対にうち来てほしいからと言うと、女の子も“引く”んでね。

開沼 一方で、繁華街浄化作戦に近いことは全国各地で行われています。関西でも、街から風俗がなくなったり、働いても給料が安くなったりという流れがあると思いますが、スカウト業はやりやすくなってますか?

杉坂 いや、今はやりにくいです。女の子はどこか消えたのかなというくらいに動かないですね。普通、キャバクラの女の子が稼げなくなったら風俗に流れてくるはずなんですけど、いまは来ないですし。ただ、この間「名古屋に大阪の子が結構来てますよ」とは言われましたね。女の子のレベルで見ると、風俗全体では大阪が一番レベル低いのかもしれないですね。

 賃金格差もありますから。東京ならだいたい60分で8000円~1万2000円くらいのバックですけど、大阪はだいたい4000円~8000円です。ユニクロの柳井さんが「世界統一賃金」とか言ってましたけど、僕らもそういうのができればいいんですけどね(笑)。僕らとしては安売り店をなくしたいんですね。適正価格、本当に適正価格がいいです。

開沼 飛田の中でもダンピングしようという動きがあるんですか?

杉坂 あります、そういうのはだいたいおばちゃんなんですけどね。30分8000円で受けているところがあったり、メイン通りでも30分1万円(通常は15分1万1000円)の店もあるらしいです。そういうのは、やっぱり組合で取り締まったほうがいいと思います。適正価格は守るべきですよ、そのための組合ですから。馴染みさんが来たとかで時間をサービスするならしょうがないですけど、玄関でそれ言っちゃダメでしょって感じですよね。

開沼 組合がダンピングを防止して、潰し合いにならないように機能していたんですね。価格面でも自分たちで問題を起こさないようにというのがあると。

杉坂 そうです。飛田でやろうと思ったら、とにかく自主規制はしたほうがいいですね。料金もそうだし、女の子のバック率なんかも均等に上げるべき。例えば、1番~9番の店が30分の接客で9000円バックです、こっちは1万1000円出しますよじゃ困ります。

 女の子がバーで飲んでて、「こっちは1万1000円やで」と言われたら、そりゃ街の中で移動しますよ。立地条件については仕方ないですけど、料金は統一させたほうがいいと思いますね。メイン、青春通り、ばばあ通りなんかの違いはしょうがないですけどね。

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