過去3回にわたり行動ファイナンスの観点から「人間は合理的なのか?」「選択肢が多いことは良いことなのか?」などのテーマについてお話ししてきました。結局、行動ファイナンスによると、人間は合理的とは言えず、また選択肢が多いと意思決定が麻痺してしまう傾向があります。今回も引き続き人間の悲しい習性に焦点を当て、「自分は他人よりも優れた運用ができるのか?」という三つ目のテーマについて検証します。

将来を予測するのは難しい

 投資をする際、一般的に情報が多いほど投資家はその意思決定に自信を持つ傾向がありますが、それが時に裏目に出ます。その典型が1980年代後半の日本のバブルと1990年代後半から2000年初頭のITバブルです。日本のバブル期には米ビジネスウィーク誌が「いかに日本株式会社の大相場に乗るか」という特集を組むなど、内外のメディアがこぞって日本株式の購入を後押しする論調でした。ITバブル期にもメディアがハイテク株や通信株への投資を煽り、「ネット企業に投資すれば手軽に金持ちになれる」などの浅薄な意見も珍しくありませんでした。このように多くのメディアが同様のメッセージを何度も発すると、投資家はその真偽を確かめようとせず、あたかもそれが正しいことのように感じ、自信を持ってしまう傾向があります。理論よりも経験則や直感に基づいて行動するこのような人間の特性を「ヒューリスティック」と言います。最近では、リーマン・ショックのときにも逆の方向に同様のことが起こっており、これは人間の性質として普遍的なものだと考えられます。

 また、人間は上述のような外から自然に入ってくる情報に惑わされるだけでなく、圧倒的な情報の中から自分が入手しやすい情報や身近な情報だけを重視する傾向もあり、これも問題を引き起こします。例えば、投資家にはその人が属する国や企業の株式についての情報が集まりやすく、そうした身近な情報を客観的に分析せずに行動する結果、必要以上に自国株式に投資したり(これをホームカントリー・バイアスと言います)、自社株式を多く保有することになりがちです。実際、米国の確定拠出年金では米国株式と自社株式の比率が非常に高くなっていますし、日本の確定拠出年金でも同様の傾向がみられます。

 このように情報が増えると自信が深まり、最適な意思決定ができる気になりますが、実際には必ずしもそうではなく、むしろ足を引っ張ることが多いのです。しかも、この自信過剰の問題は個人投資家だけでなく、プロの投資家にも見られます。その例として、1989年にエール大学のロバート・シラー教授が日本の機関投資家を対象に株式市場に対する自信度を測定した結果を見てみましょう。まず、バブル絶頂期の1989年には機関投資家の自信度は最高でしたが、翌1990年のリターンは皆さんもご存知のようにバブル崩壊で惨憺たるものでした。次に、2004年にも同様の調査をしたところ、多くの投資家が市場の先行きに悲観的でしたが、翌2005年のリターンは大幅なプラスとなりました。このように、たとえプロでも市場を見通すことは難しいのです。個人投資家でもある程度の投資経験のある方は自信を持つ傾向がありますが、その自信が本当に合理的なものなのか今一度考えてみる必要があるのではないでしょうか。