中国 2013年5月28日

「反日」の煽りを食ったのは日系企業だけじゃない!
“親日”中国人企業家たちの試練とは? 【第1回】

2006年に中国移住。蘇州、北京、広州、そして08年からは上海に在住。情報誌の編集長を務める大橋さんが目にした、尖閣問題以降の中国人親日企業家たちの苦悩とは?

「反日」の影響は中国企業にも。日本との関わりを捨てる経営者も……

 昨年9月11日の日本政府による尖閣諸島(中国名:釣魚島)国有化以降、業界による違いはあるが、中国でビジネスを展開する日系企業に少なからず影響が生じている。

 反日デモ、不買運動、入札からの締め出しと、日本のメディアでは日系企業の被害状況ばかりがクローズアップされるが、われわれが見落としていることがある。煽りを食っているのは日系企業だけではない、ということだ。

 日本人や日系企業向けにビジネスをしている企業、あるいは日本の商材を扱う企業など、日本と関わりを持つ中国企業の数は膨大だ。大手はともかく、中小企業への「反日」の影響は深刻だ。彼らもまた、やり切れない思いを抱えた被害者なのである。

 ある自動車ディーラーは、日本車をやめてドイツ車を販売するようになり、ある飲食店経営者は、日本料理屋から中華料理屋へと鞍替えした。しかし、これまでと変わらずに、“日本”にこだわり続ける経営者が数多く存在するのもまた事実である。そんな“親日企業家”の肖像に迫ってみたい。 

日本に興味を持ったきっかけは、山口百恵主演のドラマ

 翻訳会社を営む曾慶斌さんは、流暢に日本語を操るが、昨年まで日本に行ったこともなければ、日系企業に勤めたこともなかった。

 日本に興味を持つようになったのは、中学生時代にさかのぼる。中国でも流行った山口百恵主演のテレビドラマ、『赤い疑惑』を見たことがきっかけだという。高校に進むと、同級生の姉が日本語を専攻していたので、よくテキストを見せてもらった。やがて地元、広西チワン族自治区の大学に進み、3年生になると、第二外国語で日本語を選択。しかし、卒業とともに日本語に触れる機会はなくなり、すぐに忘れてしまった。

 日本語との再会は上海だった。といっても就職したのは欧米企業だったので、英語は必須でも日本語を使う機会はなかった。

 ところが、街中で日本語を耳にする機会が多かったことが理由だろうか、日本語への情熱が再び沸き起こってくる。上海には、県人会や異業種交流会など、たくさんの日本人コミュニティが存在する。それらに積極的に参加し、日本人と交流することで、語学学校に通うことなく日本語能力を高めていった。

携達翻訳の曾慶斌・董事長兼総経理(会長兼社長)。外出の多い曾さんには個室がなく、会議室が仕事場となっている。今でも時間が許す限り、日本人コミュニティには積極的に参加している【撮影/大橋史彦】

趣味が高じて翻訳会社を創業

 中国に限らず、アジアにはこうした、日本に行かずして日本語を流暢に話す人が多い。しかしその多くは、日本語スキルが収入に直結するという打算があるからだ。ところが曾さんにとっての日本語学習は、あくまでも趣味だった。それが、実務経験もないまま翻訳会社を興すことにつながっていく。

 曾さんは地元と上海とで2回、起業に失敗している。独立志向の強い曾さんは、それでも諦め切れなかった。背水の陣で2004年に立ち上げたのが、「上海携達商務諮詢有限公司(携達翻訳)」だ。

 最初は人をほとんど雇わず、自らも翻訳作業を行なった。日系企業に勤めたことはなかったものの、彼らに求められることはわかっていた。翻訳や通訳の質はもとより、納期の厳守、守秘義務、そして低価格だ。

 上海には日本語を扱う翻訳会社の数は多いが、価格はともかく、これらすべてを実現している業者は多くない。

 携達翻訳はそれを徹底することで、徐々に日系企業からの信頼を獲得し、現在では日本人、欧米人を含め18名の社員を抱えるまでに事業を拡張したのだった。

携達翻訳の社内には、日本企業のように「報告・連絡・相談」「納期厳守」「秘密保持」などの標語が張られている【撮影/大橋史彦】

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