なぜ暴落しないのか

 市場の崩壊寸前といえるが、しかし、それでも暴落は起きない。

 なぜなら、このリスクを集積させた中小の金融機関は、国債価格下落に反応しないからだ。反応できないと言った方が良い。つまり、損失を限定するために投げ売りをしようとはしない。小規模な地域銀行や信用金庫などは、国債以外にめぼしい運用先がない。国債の投げ売りをしても運用の代替手段がなく、企業体として生き残れない可能性が高い。だから、彼らは国債を投げ売らず、ただ、破綻しないこと、金利が急騰しないことを祈るしかない。

 もし国債価格の下落が進めば、中小金融機関は国債を抱えたまま破綻し、それにより地域経済も破綻する。しかし、そうはならない。この危機を回避するために政治は動くはずで、政府は資本注入を行ったり、中小の金融機関同士の合併などを促進する政策をとるだろうし、そうするしかない。

結局、日銀?

 しかし、もっと手っ取り早く安直な方法がある。政治は、その禁断の果実に手を伸ばすだろう。

 つまり、日銀に国債をさらに大量に買わせるのだ。欧州危機においても同じような措置がとられたが、すなわち、金融機関を資本注入で救済し、同時に時価が暴落した保有資産の買い支えを行い、金融資産のさらなる暴落による破綻を防止する。

 このシナリオの可能性は高い。なぜなら、日本では国債危機が、社会にも政治家にも「危機」と認識されないからだ。国債がなかなか暴落しないため、国債発行自体が悪いという流れにならない。したがって、日本経済が危機を迎えても、国債発行に歯止めがかからない。投げ売りする代わりに、国債を抱えたまま実質債務超過に陥った中小の金融機関は、じっと政府や日銀の救済を待つだろう。これが「金融機関の安楽死」だ。目に見える暴落がおきず、抜本的な再建でなく、安易な日銀による国債買い支えが行われるだろう。

 このとき日銀は、金融機関が保有する国債を時価よりも高く買い取り、現金を注入し、実質的な資本注入を行うだろう。一方、長期国債の年限の長いものを市場で買い支えるだろう。しかし、このふたつの手段は、すでに日銀が取っている政策だ。そう、実は、日本国債危機は始まっており、危機対応も始まっていたのだ。

 これが、現在の日本国債市場であり、今後の国債市場のゆくえである。