2013年5月24日、衆議院での審議が開始された生活保護法改正案は、申請手続きを極度に困難にするなど、数多くの問題点を含んでいる。しかし審議を通じて、申請手続きに関する問題には修正が加えられる見通しとなった。この背景には、国内外からの数多くの批判があった。

では、申請手続きの問題だけが解決すれば充分なのだろうか? 現状のまま法案が成立した場合、どのような問題が予想されるだろうか?

生活保護法改正案をめぐる
現在進行形の激動

修正が加えられても未だ数多くの問題点が <br />生活保護法改正で追い込まれるDV被害者たち高齢者世帯・障害者世帯・傷病者世帯・母子世帯の合計で、80%を越える(2011年)
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 生活保護法改正案をめぐる動きは、ゴールデンウィークが明けて以後、極めて速く激しい。まず、5月に入ってからの主な動きを振り返ってみよう。

・2013年5月10日 厚労省、生活保護法改正案を自民党・厚労部会へ提出

 厚労省は、生活保護法改正案を自民党・厚労部会に提出し、了承を得た。14日には、公明党も了承した。

 この改正案には、申請手続きを極度に困難にする「水際作戦の法制化」と言うべき内容を始め、数多くの問題点が含まれている。社会保障審議会・生活保護基準部会(2011年~)、同じく生活困窮者の支援に関する特別部会(2012年~2013年)の議事録や報告書、3月11日に行われた厚労省の「社会・援護局関係主管課長会議」資料でも、この改正案の「前触れ」となりうる内容を見出すことはできない。

修正が加えられても未だ数多くの問題点が <br />生活保護法改正で追い込まれるDV被害者たち「働けるのに働かない」とされがちなタイプの生活保護世帯である「その他の世帯」(世帯主が稼働年齢層で健常者、母子世帯ではない)だが、半数以上は世帯主が50歳~64歳。就労には大きな困難がある(2011年)
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・2013年5月17日 閣議決定

 厚労省が提出した生活保護法改正案は、閣議決定された。

・2013年5月17日 国連勧告

 5月17日、国連 経済的・社会的 および文化的権利に関する委員会は、日本の第三回定期報告書に関する総括所見を採択した。この総括所見は、日本の公的扶助(生活保護)に関し、以下のように延べている。

「生活保護の申請手続を簡素化し、かつ申請者が尊厳をもって扱われることを確保するための措置をとるよう、締約国に対して求める。委員会はまた、生活保護につきまとうスティグマを解消する目的で、締約国が住民の教育を行なうよう勧告する。(日本語訳:社会権規約NGOレポート連絡会議) 」

修正が加えられても未だ数多くの問題点が <br />生活保護法改正で追い込まれるDV被害者たち「その他の世帯」の世帯員には、多数の障害者・傷病者が含まれている。世帯主の年齢が高い場合には、親の高齢化問題も重なりうる(2010年7月)
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 ここでは、

・生活保護の申請手続きは、現在より厳格化されるのではなく、簡素化される必要があること

・生活保護申請者に対して「恥」の意識を求めたり、本人の不足を暗に責めることによって申請を取り下げさせたりしないこと

・日本の一般市民に対し、生活保護当事者に対する差別を行わないように社会教育を行う必要があること

 が述べられている。2012年4月に端を発した「生活保護バッシング」以後、政府・自民党等が推進してきた方向性とは全く異なっている。なお、この総括所見は、「老齢基礎年金が生活保護水準以下」をはじめとする日本の高齢者の貧困などの問題に対しても、提言を行い、実態の報告を求めている。ぜひご一読いただきたい。(日本語訳:http://www.hijokin.org/doc/170513CECSR50thSession-concluding-observations-Japan3J.pdf