一部の高額商品の消費が伸びるなど、百貨店業界では明るい兆しが見えてきた。来年の消費増税を控え、足元の傾向は今後も続くのか。

三越伊勢丹ホールディングス社長 大西 洋 <br />短期的な売り上げ減は覚悟の上 <br />今夏のセールはさらに遅らせるPhoto by Kazutoshi Sumitomo

──足元の景気動向はどうですか。

 数字を見る限り消費は間違いなく強まっています。今年3~4月は貴金属、宝飾品、時計などの売り上げが前年比で約3割も増加しました。5月以降は、衣食住の各分野も伸びており、全体で前年比7~8%の増加の見込みです。

 とはいえ楽観はしていません。足元の好調は、株価上昇で利益を得た一部の人の消費にすぎないのかもしれません。さまざまな要因が考えられるため、今の傾向が続くとは断言できません。

──JR大阪三越伊勢丹は苦境にあります。失敗の原因は。

 一つは需給のバランス。新宿は百貨店や専門店を合わせた売り場面積は二十数万平方メートルですが、大阪の梅田エリアは30万平方メートルを超えています。1日当たりの乗降客数は、新宿が約350万人に対して梅田は200万人です。

 二つ目の理由はマーケティング力が不十分だったことです。店舗名に「JR」と「三越」と「伊勢丹」がある通り、それぞれの都合を考えた結果、非常に中途半端な店をつくってしまいました。例えば、三越が強い呉服や美術に大きな売り場をつくった結果、伊勢丹の強みであるファッションの売り場は“面”ではなく“点”になってしまった。今後は顧客ターゲットを明確にし、ある分野に特化した店舗を目指し、来秋以降に改装する計画です。

──昨夏はバーゲンの時期を2週間遅らせて話題となりました。

 百貨店の役割は顧客が一番欲しいときに欠品なく商品をそろえることです。7月1日にセールをしてしまうと、セール後に買いに来た顧客に迷惑をかける恐れもあります。7月1日からセールができるならば、セールなどせずに最初からその定価で売るべきなんです。