経営×ソーシャル
ソーシャルメディア進化論2016
【第32回】 2013年6月11日
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武田 隆 [クオン株式会社 代表取締役]

【松岡正剛氏×武田隆氏対談】(その1)
日本のインテリジェンスが息絶える前に

IT業界が取り戻すべき“編集力”

「役員は6カ月にわたって無報酬になり、社員の給与も半分になった。やむなく消費者金融に通ってみたが、何かがまちがっているのだと思えるようになるまで時間がかかった。武田たちは満身創痍で脱出口を探す。そうして得たものが、これまでのエイベックのすべてを支えてきたものになる」――それはまるで、336ページの本を1文字残らず咀嚼しきったかのような書評だった。
本連載のホスト武田隆氏の著書『ソーシャルメディア進化論』を、本好きの間ではあまりにも有名なブックレビューサイト「千夜千冊」上で松岡正剛氏が評してくださったのは今年1月12日のこと。あまりの嬉しさに、さっそく取材を申し込んだ。念願かなってようやく実現したのが今回の対談だ。
天井高までそびえる書架にぐるりと囲まれ、不思議と心地よさを感じる本楼。そこで2人が語り合った本のこと、インターネットのこと、起業のこと……。

「日本のIT系の本って、基本的につまらないんだ。
デリケートな感情の動きがあるはずなのに、それが描かれていない」(松岡)

武田 今回の対談は、松岡さんの千夜千冊に拙著『ソーシャルメディア進化論』を取り上げていただいたことがきっかけで実現しました。

松岡正剛(まつおか・せいごう)
編集工学研究所所長。
雑誌『遊』編集長、東京大学客員教授、帝塚山学院大学教授をへて、現在、編集工学研究所所長・イシス編集学校校長。日本文化、芸術、生命哲学、システム工学など多方面およぶ施策を情報文化技術に応用する「編集工学」を確立。執筆・講演・企画・構成・プロデュース・監修・演出などを数多く手掛ける。また、日本文化研究の第一人者として、「日本という方法」を提示し、独自の日本論を展開している。2000年2月から連載中のブックナビゲーション「松岡正剛の千夜千冊」は、月間100万ページビューを超える。現在、平城遷都1300年祭「日本と東アジアの未来を考える委員会」幹事長ほか、モデレーターとしての仕事も手がけている。

松岡 千夜千冊で紹介しているのを見つけて、ずいぶんと驚かれたようですね。最初は社員の方が見つけたんですか?

武田 いえ、私が最初です。おそらく、配信されてすぐだったのではないかと。

 もともと、千夜千冊はいつも拝見していたんです。『ソーシャルメディア進化論』の参考書籍であるハンナ・アーレントの『人間の条件』も、松岡さんが千夜千冊に取り上げられたのをガイドにして読みました。

 私にとっては、世界中の名著が紹介されるあこがれの舞台のようなものだったので、「あの松岡正剛だよな……あの千夜千冊だよな……」と目を疑うのと同時に、最初は怖くてなかなか読めなかったんです。

松岡 ボロクソに書かれているかもしれないから?

武田 うーん……いえ、ボロクソというよりは、たとえば、私のアーレントの理解なんて、松岡さんに比べればお話にならないというのがわかっているので、松岡正剛の知に自分の浅薄な理解が晒されたとき、もう、どうなってしまうのだろうかと……。

 とはいえ、憧れの千夜千冊に載ったわけですから、覚悟を決めました。最初はとにかくものすごいスピードで一気に読んで、その後、気を落ち着かせてからじっくりと、何度も読み返しました。

松岡 「案外ちゃんと読んでるな、この人」という感じがしたでしょう(笑)。

武田 いやいや、「ちゃんと」なんていうものではないです(笑)。本を丸ごと掴まれた気がしました。

松岡 僕は、取り上げる本はすべて克明に読むんです。好き勝手にさらっと書くのは楽です。でもそれは絶対にしません。基本的に、取り上げる本を10~15冊用意して、1ヵ月くらい前からその世界に入り始めるんです。

 丹念に書いてあるものとそうじゃないもの。自分で編集していい言葉と、そうでない言葉。そういった特性が1冊1冊違っていて、要素を選別するのに1ヵ月はかかります。料理する前に、野菜を洗ったり、湯を沸かしたり、と下準備をしておくようなイメージですね。

 そして、とりあえず頭のところだけ書いておこう、マイクロコンテンツ型に並べておこうという感じでそれぞれ進めて、最後にズンと書いていく。

武田 一夜一夜、そんなふうに書かれているんですね。

松岡 『ソーシャルメディア進化論』は、物事が時系列に並んでいるのではなくて、少しスイッチバックが入っているところが、うまくいってるよね。この方法は下手をすると、わかりにくくなる可能性がありますから。

武田 最初は教科書のように書いていたんです。ウェブ上のコミュニティというものを構想して12年。その中で得た知見を整理して、系統立ててまとめようとしていました。その原稿を編集者の常盤亜由子さんに見せたら、「まったくおもしろくない」と一刀両断されまして……。

松岡 それはいいアドバイスだったね(笑)。

武田 「武田さんも最初から正解を知っていたわけではないでしょう?」と彼女に言われて。発見のプロセスも書け、というわけですね。それは、ものすごい説得力と迫力で……(笑)。なので、泣く泣く、最初から書き直したんです。

松岡 ああ、そのストーリーが生きていますね。武田さんに言うのも何だけれど、日本のIT系の本って、基本的につまらないんだ。ほとんどおもしろいと思ったことがない。だからあまり千夜千冊にもとりあげない。クリス・アンダーソンとかあの辺はさすがにうまいと思うけれど、いつも彼らに屈服しているわけにもいかないしね。

武田 どのあたりがつまらないと感じますか?

松岡 さっきの常盤さんからのダメ出しにもつながるんだけど、苦闘を描かないんだよね。とくに日本人としての苦闘。

 たとえば、メディア論として、マーシャル・マクルーハンを参考にするとする。そのとき、「マクルーハン」を引いてくるのは簡単です。著作を多少サマライズして書けばいい。でもそれをするからには、アメリカからやってきた考え方として、「マクルーハンっていいじゃん!」と思った瞬間があるわけでしょう。そこに日本人としてのデリケートな感情の動きがあるはずなのに、それが描かれてないんですよ、ITの本って。

 既存の思想・技術を、一番新しく注目されているものからセットバックして、いかにも「自分はこれがくるとわかっていました」みたいに書くからおもしろくない。

武田 隆(たけだ・たかし) [クオン株式会社 代表取締役]

日本大学芸術学部にてメディア美学者武邑光裕氏に師事。1996年、学生ベンチャーとして起業。クライアント企業各社との数年に及ぶ共同実験を経て、ソーシャルメディアをマーケティングに活用する「消費者コミュニティ」の理論と手法を開発。その理論の中核には「心あたたまる関係と経済効果の融合」がある。システムの完成に合わせ、2000年同研究所を株式会社化。その後、自らの足で2000社の企業を回る。花王、カゴメ、ベネッセなど業界トップの会社から評価を得て、累計300社のマーケティングを支援。ソーシャルメディア構築市場トップシェア (矢野経済研究所調べ)。2015年、ベルリン支局、大阪支局開設。著書『ソーシャルメディア進化論』は松岡正剛の日本最大級の書評サイト「千夜千冊」にも取り上げられ、第6刷のロングセラーに。JFN(FM)系列ラジオ番組「企業の遺伝子」の司会進行役を務める。1974年生まれ。海浜幕張出身。


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