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6月5日 18時0分
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アダム・スミスと成長戦略 - 広木隆「ストラテジーレポート」

祝・Wカップ出場決定

ど真ん中だった。81分に失点し敗色濃厚な中から相手のハンドでつかんだ貴重なPK。時計は既に90分を示し、外せばほぼ負けが決まる。そんな重圧をはねのけての一蹴だった。見事のひとことに尽きる。

5月17日付けレポート「相場を予想するということ」で、ワールドカップ1994年アメリカ大会の決勝戦、イタリアのエース、ロベルト・バッジョがPKを外したことを書いた。状況は違えど、かかるプレッシャーの大きさは同じ。だからこそ、「PKを外すことができるのは、PKを蹴る勇気がある者だけだ」というバッジョの名言が胸に響く。

本田はPKを真ん中に蹴って、過去に失敗したことがある。それでも彼は思い切り蹴った。勇気を持って振り抜いた。その左足から放たれたシュートは、ゴールのど真ん中に突き刺さり、ネットを揺らした。日本中が歓喜に沸いた瞬間だった。

僕の5月末の日経平均予想、13250円。大外れかと思われたシュートは、急激なカーブがかかってゴールへ向かった。ゴールネットを揺らすことはできなかったけれど、クロスバーに当たって跳ね返るくらいのところには行っただろう。

成長戦略第3弾

今日、グランドプリンスホテル新高輪「飛天」の間で行われた安倍首相による「成長戦略」の講演を聴いた。首相の講演には1700人を超える聴衆・報道陣が詰めかけた。首相はサッカー日本代表がW杯出場を決めたことを引き合いに出し、今度はわれわれ日本国民が世界に羽ばたく番であると熱弁をふるった。

話の展開がとても上手だった。三浦雄一郎さんの80歳でのエベレスト登頂には素直に感動したと述べた。その三浦さんが初めてエベレスト8000メートルからのスキー滑降に成功したのは1970年、日本が大阪万博に沸いた時だった。大阪万博のシンボル、「太陽の塔」を作った岡本太郎氏の言葉も、首相は引用した。ひとりひとり、各自が、自分の持ち場でできることを精一杯やることが大切。そんな内容だったと思う。そして首相はこう結んだ。「民間活力の爆発 - それこそがアベノミクスの真髄であります。」

首相は行動を起こすことが大切と言われた。そして、成長戦略で掲げた重点課題について、KPI (Key Performance Indicator, 数値目標)で達成度を測るとも宣言した。例えば、2020年までに対日投資額を2倍の35兆円に、今後10年で電力関係投資をこれまでの1.5倍の30兆円に、今後10年間で世界のトップ100大学に日本から10校を入れる、etc.である。

そのうえで首相は最も重要なKPIは国内総生産(GDP)ではなく、1人あたりの国民総所得 (GNI=Gross National Income)と位置づけた。成長戦略で1人あたり国民総所得を最終的に年3%超、10年後に現在(2012年度384万5千円)より150万円以上増やすことができると明言した。
「アベノミクスの目標は、働く人の手取りが増えること、家計が潤うこと、その一点に尽きます。停滞の20年から再生の10年にしたい。」

国富論

今日、6月5日は「経済学の父」、アダム・スミスの誕生日である。アダム・スミスといえば「国富論」。その中でスミスは、賃金が高いことを社会の富の増進の結果であるとした。スミスの高賃金論と呼ばれるものだ。スミス以前の低賃金論に反対して、その成員の圧倒的多数が貧しい社会が隆盛で幸福であろうはずはないとして高賃金論を展開したのである。

高賃金論を説いたスミスの誕生日に、アベノミクス3本目の矢である成長戦略が出揃った - 国民総所得の増加を掲げた成長戦略第3弾の発表を、アダム・スミスの誕生日にあえてぶつけてきたなら、相当、洒落が効いている。

アダム・スミスと自由放任主義は切っても切れない関係だ。例えば、スミスは重商主義を批判した。関税により国内産業の独占を許すなどの保護貿易主義を批判した。これはTPP参加を決め、成長戦略=規制緩和を推し進めようというアベノミクスの方向性に合致する。アダム・スミスの自由放任主義の主張は、すなわち障害、障壁、規制の撤廃であり、構造改革そのものといってよい。
アダム・スミスの「国富論」でもっとも有名なのは、「神の見えざる手」であろう。市場経済において、各個人が自己の利益を追求すれば、結果として社会全体において適切な資源配分が達成される、とする考え方である。首相が引用した前述の岡本太郎の言葉と、どこか重なる。みんなが頑張る。「民」が頑張る。ここで展開される自由放任主義は、国家が民間の活動に介入することの否定である。

今日、安倍首相が成長戦略の講演で「民間の活力」と連呼したこととスミスの自由放任主義は通じるものがある。しかし、そうした首相の考え(及び民間の識者のコンセンサス)、すなわち成長戦略とは国主導で成長産業を創出するようなものでなく、民間主導で自由闊達なビジネスが活性化する舞台作り、環境整備を進めることだというコンセプトが、官僚に共有されているとは言いがたい。

過剰介入

例えばいい例が、「女性手帳」の作成と配布だ。案の定、配布は見送りになった。

識者の声を挙げよう。
<女性が子どもを産み、育てづらい社会の責任は政治にあるのだから、国こそ責任を感じて、根本にある社会問題を解決すべきなのに、その責任を棚に上げ、女性たちに責任を転嫁して、女性たちに産み育てる自覚と責任を痛み入らせて、問題を解決しようなんて、まさに本末転倒である。>
(伊藤和子氏 弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ事務局長)

<そもそも「少子化は、女性が将来設計をきちんと考えていないから起こってる」という発想自体が、現実と真逆です。むしろ少子化は「女性が将来設計を真剣に考えすぎているからこそ」起こってる。なのに手帳まで持たせて、これ以上、女性に人生を計画させてどーすんだか。>
(Chikirin氏 ブロガー)

要は、官主導、上から目線、しかも認識不足と言うより本末転倒甚だしい。

これでも懲りないのが、お役所というところだ。まったく反省も他山の石といった気配もない。こういうニュースがあった。「女性のスーパークールビズ、環境省提案に賛否」。

「スーパークールビズ」が週明けの3日、中央省庁などで始まった。これまでクールビズは、冷房温度を高めに設定した職場で、男性が上着やネクタイを身につけず快適に働けるようにする点に主眼が置かれていた。環境省はこの取り組みを広げることを目指すとして、女性向けにも涼しげな服装などを初めて提案した。ところがこの提案、服装だけでなく、汗で崩れにくい化粧や半身浴の活用、におい対策など多岐にわたるものとなっている。

汗で崩れにくい化粧?半身浴の活用?におい対策? そんなこと、お役所が「指導」するなんて、はっきりいってお節介以外の何もでもない。

成長戦略の心意気はよしとしよう。しかし、国家が民間の活動に過度に介入することを諌めたアダム・スミスの精神とはかけ離れた事象が政府の行動に見え隠れするのが気懸かりである。

もうひとり、6月5日生まれの経済学の巨人がいる。ジョン・メイナード・ケインズである。ケインズは、「自由放任の終焉」で古典的自由主義を批判した。ケインズは、<これまでにわれわれを支配してきた「自由放任」の思想 ― 政府は経済的領域に干渉する権利および、その必要性質もないばかりか、それは不適当である、とする通念 ― が、いかにしてその権威を人々のあいだに獲得することができたのであろうか>と問うのである。

周知のようにケインズは、自由主義経済を活性化させるには、むしろ総需要管理の観点から政府主導を提唱した経済学者である。

アダム・スミスの自由放任主義とケインズによる政府主導の総需要管理政策。
アベノミクスの成長戦略はどっちなんだ?と問われれば、そのふたつの「いいとこ取り」のような回答を今日の安倍首相の講演で聞かされたような印象だ。

そうしたことを暗に示唆する目的で、今日6月5日、アダム・スミスとケインズの誕生日に、安倍首相の講演を意図的に仕組んだとすれば、それを企画した人物は、洒落者どころか、相当したたかな人物である。


(チーフ・ストラテジスト 広木 隆)

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