第2次安倍内閣発足から約半年、「アベノミクス」は家計・企業のマインドを変え、日本経済の縮小均衡トレンドに歯止めをかけた。この点は高く評価できる一方、これまで見てきた通り、副作用が心配される面や未着手の政策課題も多く残されている。

その意味で、第1回に述べた通り、真の経済財政の再生を目指すには現段階でのアベノミクスは「未完の政策体系」である。とりわけ非伝統的金融政策に重点を置いたいわゆるリフレ政策が大きく先行した現在の状態を、よりバランスのとれたものとするには、①第3の矢である成長戦略を効果的なものとすること、および、②第4の矢として財政再建の道筋を示すこと、の2点が喫緊の課題である。

このシリーズでは、このうち②の財政再建について基本的な考え方については河村が論じ、財政再建のための個別分野として最大のポイントになる社会保障制度改革については西沢が述べてきた。そこで、最終回となる本稿では、①の成長戦略をいかに効果的なものとするか、という点について考えよう。

政府の成長戦略を
どう評価するか

 成長戦略に対する、安倍内閣のこれまでの取り組みを振り返ると、3月中旬にTPPの交渉参加表明が行われ、産業競争力会議や規制改革会議において民間有識者による議論が精力的に行われてきた。

 そこでの議論を踏まえ、安倍首相は、4月に成長戦略第1弾として医療・女性・若者にフォーカスをあてた施策を進める方針を示し、5月には民間設備投資の1割増や農業・農村の所得倍増に取り組む第2弾を発表した。さらに、6月5日には「国際戦略特区」の創設や、エネルギー、医療、インフラ整備といった「官業」の開放方針を謳った第3弾を明らかにし、同日の産業競争力会議で「産業再興」「市場創造」「国際展開」を3つの柱とする成長戦略・素案が示された。この素案をもとに6月14日には正式に現政権の成長戦略が公表される段取りである。

 これまでの取り組みを評価すると、何よりもTPP交渉参加を表明した意義は大きい。人口減少・貯蓄率低下という資源制約に直面するわが国が、今後潜在成長率を引き上げていくには、グローバルな産業連関ネットワークの中に国内産業活動を位置付け、比較優位分野・戦略分野にヒト・カネをシフトすることが不可欠である。