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トヨタの「苦渋」の撤退で
問われるF1の魅力と意義

週刊ダイヤモンド編集部
2009年11月6日
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 「ファンの期待を裏切ってしまったことは大変悔しい――」。

 11月4日、トヨタ自動車がF1からの完全撤退を決めた。重々しい雰囲気のなか、自身もレース好きで知られる豊田章男社長は、トップとして苦渋の決断を下さなければいけない理由を語った。「経営は引き続き厳しい状況だ。いまはできるかぎり本業へ会社の資源を集中させたい」。

 チーム代表の山科忠専務はトヨタの若手レーサー育成プログラム出身の中嶋一貴、小林可夢偉選手の話になると「ここまで育てた二人なので、できればどこかのチームに乗せたい。継続してチャンスを与えてあげられないのは残念」と何度も声をつまらせた。

 ハイブリッド車人気や各国政府の支援による販売押し上げ効果もあり、上半期決算では乗用車メーカー各社が軒並み業績を上方修正していた時期だけに、F1撤退はなお色濃く残るトヨタの経営の厳しさを浮き彫りにした。

 トヨタのF1の歴史は1999年、当時の奥田碩社長肝いりで始まった。その狙いは欧州をはじめ世界でのブランド力向上とエンジン開発技術および人材育成。2002年に初参戦してから8年間で計140戦に参戦、準優勝に至るまでチームは成長したものの、ついに優勝の夢は果たせなった。

 F1のコストはモータースポーツのなかでも特に高く、一般的にワンシーズン数百億円もかかる。昨年来の経営危機以降は続けるかどうか、社内で何度も議論になった。それでも2012年までの参加は表明していたため、「続けるためにもコスト削減等ありとあらゆる手を尽くした」(豊田社長)が、ここにきて急遽方針を変えたのは、トヨタがいくつもの経営課題を抱え、限界が来たと判断したためだろう。

 豊田社長は今年6月に就任以来、「商品を軸とした経営」を強調してきた。会社の資源を「クルマを作って売るという原点」に集中させるために、急ピッチで金融子会社の売却や住宅事業の切り離しなどを進めていたところだった。

 また、各副社長に担当地域を持たせ、地域性の高い商品作りを打ち出した。そして周知の通り、プリウスを代表とするハイブリッド車をはじめとしたエコカーなど将来技術への投資によりいっそう重点をおいた。

 しかし、為替変動に大きく左右される企業体質や、世界で300万台以上の余剰生産能力を抱える問題には、抜本的な解決の目処はたっていない。旧GMとの合弁会社NUMMIの清算も済んではいないし、最近では米国での大型リコール疑惑まで浮上してきてしまった。

 上半期決算発表時には、1兆2500億円もの緊急収益改善活動を見込み、通期業績を上方修正。しかしなお営業赤字は3500億円とするなど、巨艦ゆえか、他社に比べて業績回復スピードの遅さは否めない。

 ただトヨタの経営問題の一方で、F1そのものの魅力や、自動車メーカーが参戦する意義が、近年は薄れてきていたという点も注視すべきだろう。ガソリンエンジンのスピードを追及するという競技内容自体が、クルマに環境性能や燃費を求める時代にそぐわなくなっているからだ。

 昨年トヨタに先んじてF1から撤退したホンダは、F1に関わっていた技術者をエコカー開発に配置転換した。「彼らにはF1よりももっと厳しい課題を課している。F1がスピード技術と燃費技術が正当に競技されるような、よっぽどなにか新しい形にならない限り、当面の参加はない」(伊東孝紳・ホンダ社長)。

 世界トップの自動車メーカー・トヨタのF1撤退は、改めて、自動車産業が大転換期を迎えていることを裏付けた格好になった。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 柳澤里佳)

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