9条がなければ拉致問題は起こらなかった!?

 新聞によれば、2013年1月30日の衆院本会議で、安倍首相は日本維新の会の平沼赳夫国会議員団代表からの(憲法改正の)質問に対して、「党派ごとに異なる意見があるため、まずは多くの党派が主張している96条の改正に取り組む」 と答弁した。つまり9条については党派ごとに足並みが揃わないから、まずは合意形成がしやすい96条改正から着手するとの意味合いだ。答弁というよりも宣言に近い。同じく憲法改正を掲げる日本維新の会ならではの質問だろう。

 その日本維新の会の石原慎太郎共同代表は、総選挙の投票日を目前にした2012年12月12日に福岡市内で行われた街頭演説で、「憲法9条があるからこそ、私たちは、多くの同胞がさらわれて殺されても抗議して取り返すことができない」「(憲法9条を)世界に約束しているから、(北朝鮮は)勝手気ままに日本人を連れて行って殺されている」などと発言した。

 もしも本気で言っているのなら、暴走以前に思考回路のねじが外れかけているのではないかと思うけれど、やっぱり本気なのだろうな。そしてこれを聞いた多くの人たちが、「そうだそうだ。9条なんかなければ拉致問題は起こらなかったのだ」と思ったことは、その後の選挙の結果として明らかであるということになる。

 もう一度書く。彼らの標的は9条だ。でも(石原議員などを例外として)まだ迂闊には口にできない。機は熟していない。だからまずは96条改正に着手して改正要件のハードルを下げる。ハードルは下げながら改正へのステップを上がる。こうして少しずつ反対意見を封じ込める。とても周到だ。いろいろ外堀を埋めようとしている。ウェブに掲載されている自民党の憲法改正草案から引用する。

 また、世界の国々は、時代の要請に即した形で憲法を改正しています。主要国を見ても、戦後の改正回数は、アメリカが6回、フランスが27回、イタリアは15回、ドイツに至っては58回も憲法改正を行っています。しかし、日本は戦後一度として改正していません。
                    (日本国憲法改正草案Q&A)

 こうした事例を挙げながら自民党は、日本の憲法改正要件は諸外国に比較しても例外的に厳しすぎるとして、(改憲の発議要件を国会議員の)3分の2以上から過半数に緩和すべきであると主張する。

 でもここで例として挙げられたアメリカやフランス、イタリアやドイツが、過半数制を採用しているかといえば、それはまったく違う。諸外国の圧倒的多数は日本と同様に、3分の2かそれ以上の発議要件を定めている。つまり硬性憲法だ。