『お客さん、独身ですか?』

 出版関連業の佐野みどりさん(仮名・40代)は、出張先で乗ったタクシーで突然ドライバーにこう話しかけられた。

 『私、以前はアパレル業界にいたんですけど会社が倒産して、最近タクシードライバーになったんです。いちおう正社員なんですよ、ボーナスもちゃんともらえます。実はいま、人生のパートナーを探していましてね。お客さんみたいな方、タイプなんです』

 「なんと、“婚活タクシー”だったんですよ! 片っ端から女性客に声をかけているんでしょうかねぇ。後ろから見た感じだと素敵な人みたいだったし、正社員ということだったし、一瞬いいかも?!と思いましたけど、なにしろ初乗りでしたから(笑)。突っ込んだ話もできず、そのまま降りました」

 結婚するなら、まず正社員にならなければ――。冒頭のドライバー男性がそう考えてタクシー業界に飛び込んだかどうかは不明だが、雇用形態によって結婚事情が異なるのは事実のようだ。

フリーターだって結婚できる! 結婚後に正社員を勝ち取った「リベンジ婚」の男たち
「正社員にならないと結婚できない」。その思いが女性に近づくのを邪魔しているのかもしれない。

 厚生労働省が3月11日に発表した「21世紀成年者縦断調査」によると、この5年間で結婚を決めた男性のうち、正規社員は24%で、非正規社員は12.1%の約2倍だった。また、モバイルリサーチを展開するネットエイジアが2月3日に発表した携帯電話による意識調査結果では、「正社員になりたい」という人は全体の6割強。ただし、「ある程度の妥協はしてもいいので正社員になりたい」という人は女性が15.3%だったのに対し、男性では31.6%に上った。

 「派遣切り」が問題になって以来、「正社員にあらずんば人にあらず」あるいは「結婚相手にあらず」といった風潮は、ますます高まっているにちがいない。

タクシードライバーや介護職も視野に
「正社員になって結婚したい男たち」

 松島さゆりさん(仮名・27歳)は不動産会社で働く正社員。さとう珠緒似の色白美人だ。「30歳前にはなにがなんでも結婚する」と心に誓い、合コンに精を出している。

 「結婚するなら絶対に正社員! これだけは譲れないですね。でも、合コンで『失礼ですけど、正社員ですか?』なんて聞けないじゃないですか。その点、効率が悪すぎるんですよね、合コンって。相手の雇用形態や勤務先、年収は早い段階で知りたい。だからこの頃、結婚紹介所に入会しようかなあ、って考えているんです」

 婚活女子の安定願望に、男性も影響されているのだろうか。雇用市場にも変化が見えてきた。タクシー会社の人材マッチングを行なう日本総合ビジネスは次のようにコメントする。

 「不況の影響を受けてか、タクシー会社正社員を希望する人数はここのところ急増していますね。30代男性も昨年同時期の1.5~2倍くらい増えています。前職は自動車整備業、製造業、飲食・サービス業という方が多いです」

 深刻な人手不足に悩んでいた介護業界にも、関心を持つ若手男性が多くなっているようだ。