「その成否がスズキの将来を占う試金石になるかもしれない」。あるスズキの幹部はつぶやく。

 スズキは2月中旬、南アフリカ共和国(南ア)にアフリカ初の4輪車の販売子会社を設立し、6月から販売を始める。その成否とは、南アでの4輪車販売だ。

 スズキの強み。それは周知のとおり、約50%のシェアを握るインドに代表される新興国市場での存在感だろう。

 軽自動車メーカーであるスズキは小型のクルマを安く作る技術に長け、鈴木修会長の強いリーダーシップの下でインドやハンガリーなどの“未知の市場”に、メリハリのきいた集中的な投資を実施。まさに「蒔いた種が実った」(鈴木会長)という格好だ。

 南アは世界の自動車メーカーにとって中国、ロシア、インド、ブラジルに次ぐ、有望な新興国市場。現在でも約68万台の市場があり、「2010年代初頭には100万台を超えるのは確実視されている」(杉浦誠司・HSBC証券シニアアナリスト)。スズキが力を入れるのも無理はないだろう。

 さらに、スズキにとって南ア進出は冒頭の幹部の言葉どおり、これまで以上に重要な意義がある。

 その理由は明白。南アの場合、同じ新興国戦略でもかつてのインドなどとは大きくパターンが異なるからである。

 先にも触れたが、従来のスズキは、トヨタ自動車などの大手が手をつけていないニッチな国を選んで進出、その先行者メリットを享受する戦略を得意とした。

 ところが、南アは、すでにトヨタが販売台数で約2割を握ってトップシェア、欧州や東南アジア向けに「IMV」をはじめとする世界戦略車を20万台規模で生産するほどの生産拠点も持つ。まさにトヨタの“牙城”である。

 しかも、スズキは現時点で南アでの販売実績は限りなくゼロ。トヨタ(2007年で15.3万台)以下、日産(同4.8万台)、マツダ(同1.6万台)などの日系勢のなかでも大きく立ち遅れており、後発中の後発である。

 もっとも、新興国市場をめぐる動向は一変した。新興国はいまやニッチ市場ではなくなり、世界の巨大メーカーが目の色を変えて参入する有望市場に変貌。一方、インドのタタ自動車のように現地メーカーも台頭している。

 スズキは今後も新興国で強みを発揮できるのか。大きな転換期を迎えているのは間違いないだろう。

(『週刊ダイヤモンド』編集部 山本猛嗣)