〈つぶまる〉という麦茶をつくっている工場に取材に行くと言うと、何人かの友人はその夏の定番飲料について熱く語り出した。

日本人が愛する「昭和の麦茶」で世界を目指す <br />暑い職場で働く麦茶焙煎職人の熱さ煮出し麦茶〈つぶまる〉

「うちも飲んでいる」「麦茶では最強」「〈つぶまる〉は他のと違う」

 麦茶には独特の魅力がある。

「うちは子どもの頃、砂糖を入れていたよ」

「え、砂糖? それはありえん!」

 なぜか麦茶について語っていると『砂糖を入れるのはありやなしや』という論争まで起きることがある。

 とにかく、麦茶の味が一際おいしいのは、その味が日本人の原風景を含んでいるからだろう。夏の暑い日に家に帰ってきて、冷たい麦茶を飲み干した、というような経験を日本人なら誰しもが持っているからだ。

もともと貴族の飲み物だった麦茶
冷蔵庫の普及とともに庶民の定番に

 取材に伺う前に小川産業の定番商品〈つぶまる〉は飲んでいた。ちょっと高級なスーパーや百貨店、あるいは少し品揃えにこだわりがある食材店なら並んでいる麦茶だ。

 はじめて飲んだとき、他のメーカーのものとは世界の異なる味に驚いた。

 まず雑味がなく、甘みがある。苦味やエグミがないからすんなりと身体に入ってくる感じがする。後味はとても軽く、すっきりとした飲み心地だ。

 貴族の飲み物だった麦茶は江戸時代から屋台で飲まれ出した。今のように一般家庭の定番になったのは、昭和30年代、冷蔵庫が普及してからである。