経営×ソーシャル
ソーシャルメディア進化論2016
【第34回】 2013年7月9日
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武田 隆 [クオン株式会社 代表取締役]

【松岡正剛氏×武田隆氏対談】(その3)
食べログに行きつけの店は書きたくない?
ランキングが文化を生まないワケ

食べログ、アマゾン、カカクコム……。これだけ私たちのまわりにモノや情報があふれてくると便利なのが、いわゆる評価サイトだ。購入者の感想や評価、売れ行きなどをもとに生成されるランキング情報は、一見してわかりやすいため、よく参考にしているという人も多いだろう。
けれど、ランキング情報ばかりが過剰に重視されることには違和感もある。松岡正剛氏はずばり言う。「『みんながいい』というのは価値のひとつではあるけれど、つまらない」。なぜならいつの時代も、ものの価値を編集できる目利き集団によって文化はつくられてきたのだから、と。果たしてインターネット上でも、目利きの機能を持たせる方法はあるのだろうか?

「ランキングが評価のすべて」では、文化は生まれない

松岡正剛(まつおか・せいごう)
編集工学研究所所長。
雑誌『遊』編集長、東京大学客員教授、帝塚山学院大学教授をへて、現在、編集工学研究所所長・イシス編集学校校長。日本文化、芸術、生命哲学、システム工学など多方面およぶ施策を情報文化技術に応用する「編集工学」を確立。執筆・講演・企画・構成・プロデュース・監修・演出などを数多く手掛ける。また、日本文化研究の第一人者として、「日本という方法」を提示し、独自の日本論を展開している。2000年2月から連載中のブックナビゲーション「松岡正剛の千夜千冊」は、月間100万ページビューを超える。現在、平城遷都1300年祭「日本と東アジアの未来を考える委員会」幹事長ほか、モデレーターとしての仕事も手がけている。

松岡前回の話から続きますけれど、新しいコミュニティがブレイクするためには、セミプロ集団のような、隠れた目利き集団が必要かもしれませんね。

武田 それは、コミュニティを評価するために、ということでしょうか?

松岡 いや。コミュニティの内部にこそ、です。

 たとえば、美術であれば、ギャラリストやメディア、あるいは美術学、コレクターなど、ここぞというときに真価を発揮する目利きが存在しています。

 歌舞伎も、これを十八番にしましょうとか、こういうタイトルにしましょうとか、今でいうコピーライターみたいな集団が最終的な価値を編集していたんです。それによって、「与話情浮名横櫛(よわなさけうきなのよこぐし)」のような歌舞伎文化にしかないネーミングが生まれた。

 僕がやっている編集工学研究所が担うべきは、そういう役割かなと思います。だって、いつまでもインターネット上の評価がランキングやカカクコムのようなシステムだけでは、文化は生まれないでしょう。

武田 飲食店の本当の常連は「評価サイトには、自分の行きつけの店は書かない」というのを聞いたことがあります。僕もそうですけど(笑)。

 たとえば、焼肉屋のレビューに、タンが厚いとか肉の脂身がとけるとか、具体的な状況が書いてありますよね。でも実際、常連になる人は、たとえそれがきっかけであっても、その店に通い詰める理由はもっとホリスティック(包括的)に、「その店が好き」なわけですよね。

 なんともいえない店の匂いとか、誰かとの想い出があるとか、だから、タンが薄くてもまあ許せる(笑)。本当の理由はもっとノイジーで偶発的なもので、レビューに書けるようなものではありません。

 逆に、書いても差し支えがないようなレビューが集まれば、そこにもやはりランキング的な情報の集合体が現れる……。

松岡 そのとおりです。「みんながいい」というのは価値のひとつではあるけれど、つまらないものです。

 そういう意味で千利休は、茶の湯をプロデュースするために、目利きの機能をうまく利用していましたね。織部の茶碗もそうやって出てきたんです。

 年に1、2回だけ、当時最大のコレクターであった神屋宗湛や、一番新しいイデオロギーを持っていた高山右近など、5人の目利きを呼ぶお披露目会を開く。そこに織部のゆがみ茶碗という、まだ価値の定まらないものを持ち込んで、暗がりで見せる。そして1度見せたら、もう半年は見せない。

 そうすることで、「あの暗闇で拝見したひょうげものはなんだったのか」「今まで見たことがないくらいすごい傑作だ」と噂だけが広まっていく。そして半年後、その茶碗が市場に出たら、とたんに通常の10万倍の値段になる。これは限られた目利きだけが評価したからこその価値付けです。

武田 インターネットってオープンスペースですから、そういった暗闇のなかの秘密が薄いんです。谷崎潤一郎が暗い部屋で羊羹を食べて「あたかも室内の暗黒が一箇の甘い塊になって舌の先で融(と)けるのを感じ……」と表現したような淫びな世界が生まれづらい。フェイスブックのマーク・ザッカーバーグも、暗闇をどんどんなくすような「トランスペアレンシー」を提唱しています(本連載第23回、公文俊平氏との対談参照)。

松岡 ほんとザッカーバーグって、子どもみたいに暗闇のない顔してるよね。

武田 (笑)。でも、密度の濃いネットワークが陰や闇のもとに集まるものだとすると、インターネットにも茶室のような、なにかしらの秘密を守る空間が必要だということになりますね。

武田 隆(たけだ・たかし) [クオン株式会社 代表取締役]

日本大学芸術学部にてメディア美学者武邑光裕氏に師事。1996年、学生ベンチャーとして起業。クライアント企業各社との数年に及ぶ共同実験を経て、ソーシャルメディアをマーケティングに活用する「消費者コミュニティ」の理論と手法を開発。その理論の中核には「心あたたまる関係と経済効果の融合」がある。システムの完成に合わせ、2000年同研究所を株式会社化。その後、自らの足で2000社の企業を回る。花王、カゴメ、ベネッセなど業界トップの会社から評価を得て、累計300社のマーケティングを支援。ソーシャルメディア構築市場トップシェア (矢野経済研究所調べ)。2015年、ベルリン支局、大阪支局開設。著書『ソーシャルメディア進化論』は松岡正剛の日本最大級の書評サイト「千夜千冊」にも取り上げられ、第6刷のロングセラーに。JFN(FM)系列ラジオ番組「企業の遺伝子」の司会進行役を務める。1974年生まれ。海浜幕張出身。


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