クラブと麻雀、業界団体が弱体化する共通の理由

開沼 町内会が機能していないとすれば、町内会の機能を持つものをどうつくっていくのか、というアクティビストとしての動きが必要だと思います。クラブ規制の問題について、磯部さんは具体的にどういった動きが必要だと思いますか?もしくは、いま関わっているものがあれば教えてください。

磯部 クラブに関しては、これまで、「業界団体をつくる」という風俗業界にとっては初歩のことすらも成されてこなかったという事実があります。実際には、業界団体をつくろうという動きはディスコ時代から何度も起きているんですが、毎回、それが頓挫してしまうんですね。

開沼 例えば、映像では映倫があり、自主規制がありますよね。他の業界団体でもダンピング競争をやめたり、独占禁止法を遵守したり、業界内外のバランスを守る活動をしています。こうした動きをクラブではできなかった理由はなんですか?

磯部 まず、ディスコという国民的なブームがあり、その裏で、よりアンダーグラウンドなもの、よりスノッブなもの、隠れ家風で渋い音楽がかかっている場所として登場したのがクラブでした。言ってみればアンチディスコ的な、ただし、同時多発的なムーヴメントだったので、店舗同士につながりはなく、またオーナーも一匹狼のような人が多くて、業界としてまとまることを嫌うような傾向はあったみたいです。

 そして、長らく大規模な摘発がなかったことも、業界団体を結成する必要に迫られなかった理由のひとつでしょう。他の業界の話をすると、パチンコには様々な業界団体があります。また、風俗営業種ではありませんが、カラオケも同様で、強い影響力を持っています。

開沼 なるほど。それはあまり知られていないことですよね。とはいえ、金回りがすごかったり、夜通し繁華街で営業をしていると、問題を取り上げられやすい業界になるわけですね。

磯部 カラオケは、風営法に抵触するかどうか常にせめぎ合いのある業種です。80年代末にカラオケ・ボックスが流行ったときは個室化が問題になりましたし、ここ数年で言うと、フリカラという映像にあわせて踊るコンテンツが「ダンスをさせる営業」にあたらないのかとか。

 それに対して、カラオケの業界団体は様々な自主規制を設けることで、行政による過剰な規制を免れてきました。あと、最近、聞いた話で興味深かったのは、雀荘は業界団体の加入率が2割程度で低いということです。

 雀荘と風営法の問題で言うと、まず、いわゆる「徹マン」ですよね。クラブと違って、ほとんどの店は風営法の許可を取っているらしいのですが、時間外営業は常体化しています。また、賭け麻雀の問題もあります。

 ただ、雀荘もこれまでお目こぼしにあずかってきた。看板にはあからさまにレートが書いてあるのにもかかわらず。それでも、昨年くらいから摘発が増えているようです。

開沼 ほう、そうなんですか。

磯部 そこで、業界団体を通してロビーイングをしようとしたら、いつの間にか、加入率が低下して弱体化していた。いま、再編に向けて努力しているということです。取り締まりが緩ければ緩いほど、業界の横のつながりは弱くなると思います。そして、いざキツくなったときに対応できなくなる。クラブがまさにそうですね。逆に、パチンコなんかは緊張感が持続しているからこそ、もちろん、色々な問題はあるようですが、業界団体の力が強固になりました。

六本木VANITY摘発に込められた警察のメッセージ

開沼 バラバラの個々人、あるいは個々の事業者が、そのまま国や政治に立ち向かおうとしても簡単に潰されてしまう。だから、古くから社会には中間集団が存在してきた。つまり、業界団体や組合や町内会のような地域組織、ときに宗教団体など、「個々の人々の利害を取りまとめて、社会に影響力を持ち得る団体」が社会の至る所にあります。

 一方、現代社会には、そうした中間集団を嫌悪する傾向も常にあります。「あそこには利権がある」「しがらみがあって面倒だ」などといったように。すると、バラバラのままで動く人、動かざるを得ない人も出てきますよね。

 特に、クラブのように自由を重視する人たち、しがらみを嫌う人たちによってつくられた文化では、中間集団が構築されづらかった理由も理解しやすい。ところが、クラブが危機にさらされるなかで、中間集団が構築されていて、いまも再構築される必要に迫られているということですか?

磯部 そうですね。ただ、クラブ業界に関して言うと、業界団体をつくることによって違法営業が可視化されてしまうことに対する危惧を持つ人も多いです。あるいは、法改正の動きを察知すると警察が牽制するんじゃないかとか。

 実際、5月末に六本木のVANITYという大きな箱が摘発されましたが、あれもちょうど、「ダンス文化推進議員連盟」というダンス営業と風営法の問題について考える議連が立ち上がった直後のタイミングでしたから、「見せしめか?」と緊張が高まりました。

 ただ、六本木や西麻布の大きなクラブ、一般的には“チャラ箱”や“ナンパ箱”、業界内では“ディスコ箱”と呼ばれるようなクラブの摘発は、去年辺りから続いていましたし、VANITYも再三注意を受けていたようですから、その流れだと思います。

 それでも、議連が立ち上がった直後となると、業界が疑心暗鬼になってしまう気持ちもわかります。こういうときは、さっき開沼さんがおっしゃったような、強大な権力に潰されるのではないかという関係妄想に囚われがちですよね。「俺たちはいま監視されている」みたいな。

 まぁ、警察側も、ひょっとしたらそれを計算しているのかもしれませんし、まったくしていないのかもしれません。いずれにせよ、VANITYの摘発には複数の要因が絡んでいると思います。

開沼 しかし、クラブについて政治が具体的に動くとはすごいことですよね。業界団体をつくることによって、解決できる問題の姿はだんだん見えてますか?

磯部 僕がいま考えていることは、2冊目の主張よりもさらに極端になっているかもしれません。それは、直ちには風営法は改正されなくてもいいんじゃないか、いや、下手に改正されるぐらいだったらされないほうがむしろいいかもしれないということです。所轄による運用のレベルが変わればいい。

 六本木VANITYの摘発の現場にものすごい数のマスコミがいたのは、当然、事前に情報がリークされていたからです。また、その後に警察がマスコミを通じて出した見解を読むと、決して陰謀論ではなく、あるメッセージを発しようとしていたのは明らかでした。つまり、「風営法の許可を取れば、時間外営業はそこまで問題視しない。それよりも、騒音のような近隣とのトラブルを改善しろ」というものです。

 警察としても風営法と現実に齟齬が生じているのはわかっている。それでも、変えたくない。常に「緩く広い網」をかけておきたい。目立った違法営業があればいつでも摘発したいし、ただ、過度に行って、反動でアングラ化するのも困る。そこで、近隣との関係を再構築すれば運用レベルの変化を考えなくもないというメッセージを出したのでしょう。

開沼 なるほどね。

磯部 やはり、業界団体をつくって、近隣住民だったり、警察だったりとの関係を再構築することが大切だと思いました。極端な話、業界にとっては摘発がなければいいわけです。条件闘争ではありませんが、風営法改正を自己目的化してしまうのではなくて、摘発をなくすためにこそ動いていくことが重要かなと。