中国 2013年7月17日

【番外編】モルディブレポート
今や中国人に定番の新婚旅行先。中国人向けサービスが充実

2006年に中国移住。蘇州、北京、広州、そして08年からは上海に在住。情報誌の編集長を務める大橋さん。今回は上海生まれの奥様との新婚旅行で行ったモルディブレポート。中国人に大人気のモルディブの今は……。 

いまや観光客の5人にひとりは中国人

 インド洋に浮かび、無数の島から形成されるモルディブ共和国。日本でも新婚旅行先のひとつとして根強い人気があるが、それ以上なのが中国だ。

 中国では、「結婚」に関連する行事は女性が決めるものなのだろう。上海生まれの妻も例外ではなく、少し遅めの新婚旅行でモルディブに行くことになってしまった。

 中国でハネムーンの習慣が一般的になったのは、そんなに昔ではない。文化大革命を経験している世代は、それどころではなかったからだ。新婚旅行が定着してからも、海南島などの国内が定番だった。海外旅行自体が一般的ではなかったからだが、それは日本とて同じだろう。それが経済発展とともに、中国人も海外旅行を楽しむようになっていった。新婚旅行先に海外を選ぶのは、当然の流れだ。

 上海の浦東国際空港から約5時間半のフライトでシンガポールのチャンギ国際空港へ。そこでマレ国際空港行きの飛行機に乗り換える。搭乗口には、日本人や韓国人も見受けられたが、聞こえてくるのはやはり中国語、それも普通話(共通語)が多かった。

 チャンギ空港からマレ空港までのフライトは約2時間。待ち時間などを含めると、中国から気軽に行ける距離ではないが、モルディブがなぜ人気なのか。それは、美しい海もさることながら、ビザを取らずに行けることも一因なのではないか。日本人の新婚旅行先としてほかに挙がるのはハワイやグアムなどだが、中国人はいずれもビザが必要だ。

 さまざまな国で中国人のビザの取得条件は年々、緩和されているが、ビザを取る必要がないことは中国人にとって心理的に大きいはずだ。私も日本に帰国する際、妻のビザ手続きを手伝ったことが何度かあるが、はっきり言って煩わしい。結婚までしているのに、なぜ行動予定表まで提出しなければならないのか。

 マレ国際空港に着いたのは、現地の時間で14時頃だった。空港は小国らしく、こぢんまりとしていた。イミグレーションを通過する前にトイレに入ると、小便器の位置の高さに驚いた。見たところ、モルディブ人はそれほど身長が高くないからだ。

 モルディブの経済は観光産業に依存しているが、その昔は欧米人のためのリゾート地で、彼らの身長に合わせて便器をこしらえたに違いない。ところが、モルディブを訪れるアジア人が徐々に増えていく。ホテルのトイレに入ると、極端なまでに小便器は低くなっていた。

 アジア人増加のけん引役は、かつては日本人だったが、現在は中国人に取って代わっている。年間旅行者数の国別シェアで、中国は2008年に日本を抜くと、09年には4位に。そして、10年には一気に1位に躍り出る。中国人旅行者は、この10年で約20倍という驚異的な伸びを示し、2012年の統計では約23万人に達している。2位に圧倒的な差をつけており、不動の地位といっていいだろう(下グラフ参照)。

 

 

 

閉ざされた島で働く10名の華人

 モルディブの島々は、どれも小さい。ひとつの島にひとつのホテルがあるというイメージだ。宿泊客のほとんどが中国人というホテルも少なくない。

 しかしそういったホテルを嫌い、中国人がなるべくいないホテルに泊まりたいという層もいる。私の妻もそのひとりだ。われわれが泊まった米ホテルチェーンが経営するホテルのある島は、マレから水上飛行機で20分ほどの距離だった。

 島の近くに着水し、飛行機を降りると、従業員がチェックインの手続きをしてくれる。日本人夫婦には日本人、中国人夫婦には中国人、韓国人夫婦には韓国人のホテルマンがつく。

 われわれの場合、どちらをつければいいのかわからなかったのだろう。現地のモルディブ人が案内してくれた(錆び付いていた英語の勘を取り戻すことができたのでよかったが)。

「中国人がなるべくいないところへ」と考える中国人は多いのだろう。やはりこの島にも、多くの中国人宿泊客が訪れていた。中国人の海外旅行がますます増加しているいま、地球上どこの観光地に行っても、中国人から逃れることはできないのかもしれない。

 ふたつの島にまたがって存在するこのホテルは、規模が大きく、従業員の数は400名にも達するという。日本人客も多いらしく、3名の日本人従業員(うちひとりはダイビングインストラクター)が在籍していた。文字どおりの辺鄙な島に3人も日本人が働いているだけでも驚いたが、台湾と香港を含めた中華系の従業員は10名もいるという。

 観光と漁業以外に目立った産業のないモルディブは、輸入への依存度が高く、近隣諸国と比べて物価が高い。それに加えて、このホテルは5ツ星ホテルチェーン。宿泊料金や食事代は、お金を使うことに罪悪感を覚えるほど高い。

 ところが、自分よりも歳の若い中国人がたくさんこの島を訪れているのだ。中国人は結婚が比較的早いから当たり前なのかもしれないが、南国の暴力的な日差しの下で、両国の勢いの差を見せ付けられた気がした。

われわれが泊まったホテル。ふたつの島と水上にコテージが林立する【撮影/大橋史彦】
このホテルには、台湾、香港を含め、中華系の従業員が10名もいるという【撮影/大橋史彦】

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橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
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