株式レポート
7月11日 18時0分
マネックス証券

円高に振れた理由〜バーナンキ議長がコミュニケーションをやり直し〜 - 村上尚己「エコノミックレポート」

来週の重要経済指標、主要企業決算についてPDF版のレポートで解説しています


本日(7月11日)の早朝にドル円は100円を下回り、一時98円台前半まで大きくドル安円高が進んだ(グラフ参照)。ユーロドルも大幅なユーロ高となり、為替市場では全面的なドル安が起きた。それをもたらしたのは、バーナンキFRB議長による講演後の質疑応答においての発言であった。


6月19日FOMC後の記者会見でバーナンキ議長は、経済指標の改善を条件としながら、現行の量的緩和(QE3)を2014年半ばまでに終了させるスケジュールを明示した。また、この時のFOMCでは、FRBの景気判断がかなり楽観的で、かつ2015年に想定される政策金利水準も上方に修正された。これらをうけて、FRBが量的金融緩和政策を収束させる方向が、強く示された。

その後に発表された雇用統計がやや強かったため、FRBの想定通り米経済は順調に回復しており、このままなら9月にも量的緩和縮小が始まるという見通しが強まった。筆者は早くて年末の量的緩和縮小開始を想定していたが、議長の発言をうけて緩和縮小が前倒しになると考えざるをえなかった。こうした中で、米10年金利は2.5%を超えて2011年夏場以来の水準まで上昇していた。

ただ、バーナンキ議長は、最近の金融市場の変動をうけて、市場とのコミュニケーションをやり直す必要を認識したとみられる。もちろん、量的緩和縮小は金融緩和の程度を調整するだけで金融引き締めではないし、緩和縮小の判断はあくまで経済指標の改善が前提である。このFRBの方針は変わっていないが、量的緩和縮小が「所与の前提」となったかのように、米債券市場では長期金利が上昇した。

もちろん長期金利のある程度の上昇は、将来の経済正常化を反映している面がある。まだかなり先でも、FRBが出口に向かい政策金利引き上げを始める状況が想定されれば、長期金利上昇は自然の動きである。ただ、バーナンキ議長にとっては、6月20日以降続いた長期金利上昇は許容の範囲を超えていたのだろう。足元の長期金利上昇が、始まったばかりの住宅市場回復を阻害するリスクを、警戒せざるをえなかったのではないか。

このため、出口戦略を巡る市場とFRBとのコミュニケーションが上手くいっていない部分を、修正する必要があるとバーナンキ議長は判断したとみられる。今朝行われた講演後の質疑応答において、「金融緩和政策継続の必要性」を敢えて強調し、早期の量的金融緩和縮小観測を牽制した。量的緩和縮小の9月開始がほぼ前提となっていたため、為替市場ではドル安、債券市場では長期金利低下を促した。

もちろん、バーナンキ議長らの考えが先月時点から変わったわけではない。労働市場の更なる改善が金融政策判断の条件であり、経済指標次第でその判断は変わる。そして仮に量的金融緩和縮小が始まっても、それは金融緩和継続であり、失業率改善を目指すという政策は変わらない。この点を強調するために、「予見できる将来においてかなりの金融緩和策が必要」と述べ、そして「現在注意を払うべきリスクがいくつか存在する」と今回は言及した。

最後は経済指標が判断材料になるが、それを含め米経済が抱えるリスクが大きくなれば、量的金融緩和縮小も先送りになる、ということだ。実際に、先般のFOMC議事要旨でも、メンバーの間で、量的金融緩和縮小開始について意見の違いが大きいことが判明した。バーナンキ議長は、FOMCの議論の中で「緩和縮小のスケジュールを市場に明示すべき」という意見があったことをうけて、FOMC後にスケジュールに言及したとみられるが、今にしてみればそれは失敗だったと考えているかもしれない。

バーナンキ議長が、市場とのコミュニケーションをやり直し始めたことで、6月半ば以降のドル高の流れは一服するとみられ、目先はドル円の上値は重くなるだろう。筆者は米国経済の足腰は相当しっかりしているため、経済指標の改善が続くと予想している。このためFRBは年末までに量的緩和縮小を始めるだろうが、夏場は、中国など新興国経済のリスクが残り、かつ量的金融緩和縮小への思惑が再び揺れ動く中で、ドル円相場の方向感がなくなる時間帯になるかもしれない。

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(チーフ・エコノミスト 村上尚己)

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(マネックス証券)


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