株式レポート
7月17日 18時0分
マネックス証券

脱デフレとメディアの変化〜参議院選挙を控えて〜 - 村上尚己「エコノミックレポート」

週末に投票を迎える参議院選挙も終盤を迎えているが、安倍政権が発動したアベノミクスの是非を巡り各党が論戦を繰り広げている。7月17日日経新聞では、与党が参議院で過半数を獲得するのが確実と報じられている。

脱デフレを目指した金融政策の大転換が、アベノミクス発動という格好で、政治(=国民)の後押しで実現した。それが金融市場における超円高修正と大幅な株高、そして企業利益、消費回復をもたらし、そして労働市場の回復にも繋がる兆しもみえてきた。

アベノミクスに対しては、自称評論家による陳腐な説明、あるいは一部政党が唱えるような懐疑的な批判も目に付く。ただ、先に挙げたような過去8ヶ月で起きた変化を国民が正しく認識していることが、アベノミクスへの一定の評価をもたらし、それが参議院選挙の情勢に大きく影響しているのだろう。

こうした中で、脱デフレと経済正常化を目指すアベノミクスについてのメディアの論調も少しずつだが変化している。具体的に、脱デフレつまり経済がインフレへと正常化することについて、徐々に冷静に妥当な議論が行われるようになった。

例えば、白川前日銀総裁が金融政策を行っていた2012年までは、「デフレは日本固有の病気であり治癒が難しい」という世界標準からかけ離れた珍説が流行していた。そうしたロジックを振りかざしながら、かつて白川総裁率いる日本銀行は、世界標準となっているアグレッシブな金融緩和策の採用をずっと拒んでいたのである。そうした潮流の中で、「デフレを受け入れる」というのがメディアの主な論調だった。

それが、少しずつ変わっている。例えば、アベノミクスか掲げる第一の矢「金融緩和強化」で、脱デフレ機運が高まる中で、日経新聞では「物価考」と題した連載記事が7月14日から始まった。「デフレしか知らない15歳の中学生がケーキ屋での値上がりを経験」「1997年の消費増税の翌年からデフレが本格化したこと」「最近物価上昇を想定するヒトが増えていること」などが紹介されている。

興味深かったのは連載の中の、「人口減、デフレの主因か」と題した記事で、「人口が減少してもデフレに陥っているのは日本だけ」ということが、世界各国のインフレ率と人口増加率の関係から紹介されていることだ。筆者が、2012年6月5日13日レポートで、デフレと人口動態(働き手の数)に統計的関係がないことを述べた時には、反対に日本銀行がこの論点を強調しており「人口デフレ論」が最も輝いていた時だった。

この1年前と比べると、メディアも客観的な事実を踏まえて、日本のデフレを扱うことができるようになったのだろう。大本営の見解に擦り寄ることなく、事実を元にした冷静な議論ができるようになったことは、アベノミクスのおかげだろう。

ただ、デフレや今後訪れるであろうインフレについての未だに誤解に基づく考えが、先の日経の連載記事を含めてメディアでは根強く残っている。実際には、インフレ・デフレを決する金融政策が「物価」に決定的な影響を及ぼすのだが、そうした説明から外れて「物価」についての説明する議論である。

その典型が、本日の日経新聞の連載(先ほどは良い例として紹介したが)で取りあげている、「中国など新興国企業の供給過剰がデフレを引き起こしている」という説である。これは、身近な価格変動(一般物価と異なる)から、「物価」を考えるかねてから人気が高い説だが、実際には日本のデフレの理由としては決定的に問題がある。

一つは、新興国からの供給増加に直面しているのは、日本だけではなく米欧各国も同様であり、1990年代から米欧はインフレが続き、リーマンショックという大きな経済の落ち込みがあってもデフレには陥っていない(南欧諸国にそのリスクはあるが)。だから、日本で起きているデフレの理由には全くならない。

というのも、新興国からの供給増加で、衣料品などのモノの価格下落を引き起こす要因になったとしても、それが一般物価つまり全体のインフレ・デフレを決める要因にはならないのである。通常の経済状態なら、モノの価格が下がれば、その分のサービスなど他の消費支出に回るから、物価全体にはほとんど影響しない。だから、先に述べたように、米欧でもモノの価格は下がり気味だが、全般では日本のようにデフレにはならないのである(詳細は、拙著「日本人はなぜ貧乏になったか」をご参照)。

これらの事象から得られる結論は、経済学のセオリーが示すように、デフレをもたらしているのは、モノ(+サービス)とマネーの相対的な価値変化を決定づける金融政策に求められる。ただ、日経新聞の「物価考」で、先に紹介したように1年前と比べて改善している面もあるが、未だに「一般物価」と「個別の価格変動」を混在して、デフレインフレについて妥当でない議論が行われているのである。

アベノミクスによる金融緩和策が成功して、今後、脱デフレを果たし、物価が他国のように+2%で安定すれば、インフレ・デフレを巡る混乱した議論はいずれなくなるだろう。ただ、それまでにはまだ時間がかかるので、こうした議論もたびたびメディアで繰り返されるかもしれない。今後の日本経済の行く末を考え投資を行う上では、経済学的論拠が薄い議論に惑わされないリテラシーが一段と重要になる。

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(チーフ・エコノミスト 村上尚己)

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