アスベスト対策の「規制強化」とされる大気汚染防止法の改正案が国会で審議されていたさなかに、石川県加賀市で起こったアスベスト飛散事故。その事故からは改正大防法でも対応できない現実と行政の異常な対応ぶりが透けてみえる。「知られざる」飛散事故を数回にわたって報告する。

国会審議さなかの飛散事故

「石綿の飛散を防止する対策の強化を図り、人の健康に係る被害を防止する」

 こんな目的で環境省は2006年以来7年ぶりとなる大気汚染防止法におけるアスベスト規制の強化に乗り出した。じつは環境省が規制強化の方針を打ち出した昨年春の段階から「形だけの規制強化」だと批判を浴びていたのだが、その改正案はまさにそうした批判どおりで、これまで放置されてきた大防法の不備の一部を他法令並みに修正するだけの代物だった(*)

 そんなアスベスト対策の“規制強化”が国会で審議されていた5月下旬から6月中旬、まさにそのタイミングで改正大防法の不備を指摘するかのようなアスベスト飛散事故が起こった。

行政は職務怠慢、違法解体業者は逆ギレ <br />石川県加賀市で起きた「アスベスト飛散テロ」石川県加賀市のアスベスト飛散事故が起こった5階建てのビル
Photo by Ibe Masayuki

 石川県加賀市大聖寺鉄砲町。かつて加賀百万石の支藩・大聖寺藩の城下町として栄えた地域である。近隣には鍛治町や馬場町など、城下らしい地名が並ぶ。現在でも同市の中心市街地である一角、加賀市役所から100メートルほどの場所に、大聖寺城の別名である「錦城」の名を冠した寿司屋が入っていた5階建てのビルがある。そこがアスベスト飛散事故の現場だった。

 6月18日、NPO「中皮腫・じん肺・アスベストセンター」事務局長の永倉冬史氏に同行して現場を訪れて絶句した。

 飛散事故の発覚後、石川県や小松労働基準監督署がアスベストの飛散防止などを指導したはずなのに、ビルの窓が2つ開きっぱなしだったからだ。それどころか、配管やダクトの開口部もそのままになっていた。永倉氏がため息をつく。

「これだとずっとアスベストの飛散が続いているんじゃないか。県や労基はアスベスト対策のポイントがまったくわかっていない」

*詳細はダイヤモンド・オンラインで既報の記事を参照
「またも見送られた抜本改正 大防法・アスベスト対策強化のウソ」
「人名は絶滅危惧種より「安くていい」のか 改正大防法・アスベスト対策強化のウソ(下)」