前回コラム(ソニー、富士通、NEC編)では、経済学理論からのアプローチによって「健全なる赤字決算」の分析を試みた。返す刀でパナソニックと日立(日立製作所)に挑もうとしたのだが、振り下ろす前に、筆者のほうから刀を納めることにした。正面から斬り込んでも、空を斬るばかりと思えたからである。

 それにしても、電機業界の惨状には目を覆うばかりだ。どうしてこんな業績になってしまったのであろうか。

 かつては「あっかっる~い、なっしょっ、な~る」や「このぉき、なんのき、きになるき」がお茶の間のテレビから溢れ出て、松下製や日立製というだけで家電製品が買われていた時代があった。マーケティング論でいう「イメージ戦略」の成果であり、消費者の購買意欲に多大な影響を及ぼしていた。

 イメージ戦略の基本は、独占市場を築いていることが必要条件だ(十分条件ではないことに注意)。独占市場といえば例えば、「私鉄王国」といわれる関西地域ではどうなっているのか知らないが、関東地方ではJR東日本が圧倒的なシェアを築いている。

 山手線を核として独占市場を形成しているJRの場合、中央線や東北上越新幹線といった個々の商品名(路線名)を宣伝する必要はない。旅行などのイメージを利用者に植え付けるだけで足りる。

 東京駅で最終の東海道新幹線に乗車しようとしたとき、ホームのあちこちで別れを惜しむカップルを見て「これが、シンデレラ-エクスプレスというものか」というイメージを膨らませた人も多いだろう。

パナソニック、日立も
「イメージ戦略」から「消耗戦」へ

 究極のイメージ戦略としてよく引き合いに出されるのが、世界のダイヤモンド市場を独占しているデビアス社だ。ダイヤモンドという商品そのものを宣伝するのではなく、「永遠と愛の象徴」というイメージを喧伝(けんでん)することによって、女性のハートを見事に掌握している。

 パナソニックも日立も、かつてはデビアス社を真似て、社名を中心としたイメージ戦略がメインだったのだろう。当時は東西の両横綱と称されて、安定した地位を確保できていたからだ。

 ところが、いまは群雄割拠の時代。個々の商品名のほうを連呼するCMが多くなり、企業名と結びつけるのが難しくなった。現在のCMは「企業名と商品名」を組み合わて、やっとの思いで企業名のほうも覚えてもらう、というものが圧倒的に多い。「線と点」と表現したほうがいいだろう。いまだにイメージ広告という「表面張力」だけで勝負できるのは、電力会社くらいだろうか。

 線と点の一騎打ちでは、電機業界全体が価格競争による消耗戦に陥るのもやむを得ないといえる。