改正労働契約法の施行で、今後、契約期間が5年を超える非常勤講師は無期雇用に転換が可能となった。だが大学側は無期雇用の回避に躍起だ。大量の雇い止めによって現場が混乱に陥る恐れがある。

「明らかに確信犯であり、許し難い行為だ」。早稲田大学の非常勤講師15人は、6月21日、就業規則作成をめぐる手続きで大学に不正があったとして、鎌田薫総長と常任理事ら計18人を、労働基準法違反で刑事告訴した。

3万人の講師が失職の恐れ <br />法改正で揺れる大学の危機早稲田大学の非常勤講師らは就業規則作成をめぐって大学トップらを刑事告訴。いまだ話し合いは進まず、対立を深めている
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 非常勤講師らが怒る理由は大きく二つある。

 一つ目は今年4月から実施された就業規則の中身だ。早大は非常勤講師を5年で雇い止めにすると決めたため、規則に従えば、2018年3月で職を失うことになる。

 二つ目は就業規則を決める手続きである。労基法では事業者に対し、就業規則を作成する場合は事業場(キャンパス等)の労働者の過半数代表などから意見を聞くことを定めている。だが、後述するように、早大は姑息とも思える手段によって、非常勤講師の知らないうちに就業規則を作成した。

 今回の刑事告訴に先立つ4月上旬には、各大学の非常勤講師から成る首都圏大学非常勤講師組合(以下、非常勤講師組合)の松村比奈子委員長および佐藤昭夫・早大名誉教授(専門は労働法)が、鎌田総長と常任理事ら計18人を労基法違反で東京地方検察庁に刑事告発。

 松村委員長は「早大が非常勤講師に対して行っている不正行為は他にもある。今後、第2、第3の刑事告発を予定している」と全面対決の構えだ。

非常勤講師がいない
春休み期間に
過半数代表を選出

 非常勤講師とは、教授や准教授などの専任教員とは異なり、授業科目ごとに大学と契約する有期契約教員のことである。

 早大の専任教員が約1800人なのに対し、非常勤講師は約2900人に上っており、授業の多くは非常勤講師によって支えられている。

 その非常勤講師が大学側と対立する発端は3月中旬のことだった。