“Very interesting.”が「とても面白い」とは限らない

 例を見てみましょう、。“You must come for dinner.”という表現があり、文字通り受け取ると、夕食に誘っているように思えます。

 しかし、これをイギリス人から言われたとすると、文脈によっては、「本当に招待しているのではなく、そう言っておくのが礼儀だから」というニュアンスが含まれていることがあります。日本でも「社交辞令」を言うことがありますが、それと同じです。

 ほかにも、“Very interesting.(とっても面白い)”が、状況によっては、「まったく馬鹿げている」という意味になったり、”Could we consider some other option?(ほかの選択も考えてみましょうか?)”が、「あなたの考えは気に入らない」となってしまうことがあります。また、“I was a bit disappointed that. (私は少しガッカリしてしまいましたが)”と言われたら、「とても迷惑だった」を示す場合があります。

 少し意外だと感じるかもしれませんが、「社交辞令」とは、日本だけではなくイギリスにもあるのです。「イギリス人は裏表がある」と感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、イギリス人は私たち日本人と同様、自分の文化的文脈に従っているのです。

 このような文化圏によって異なる「前提」を知らないでいると、いくら語学ができても意思疎通がうまくいかないときがあります。

 もし、ハイコンテクスト文化の人と、ローコンテクスト文化の人が、「自分たちの文化が世界基準だ」という思い込みを持ったまま、コミュニケーションを図ろうとしたらどうなるでしょうか?

 一方は、「相手はこちらの意図をわかってくれない」と不満を持ち、もう一方は、「何が言いたいのかわからない」と釈然としないことになります。最悪の場合、相手のことを誤解したまま物別れに終わってしまうでしょう。

 堪能な語学力だけでは異文化コミュニケーションはうまくいきません。文化の衝突を避けるためには、目に見えない差異を理解しようと努めることが重要なのです。

 日本人同士の意思疎通では、多くを言わずとも相手が理解しようとしてくれるため、とても気楽です。いちいち言葉で説明しなければならないことは、エネルギーを使う、大変骨の折れることではありますが、そうしないと認めてもらえない文化圏もあるのです。

 誤解してほしくないのですが、語学力が必要ないと言っているわけではありません。もちろん、堪能な外国語という「ツール」を持っていることは強みになります。

 しかし、より大切なことは、語学さえできるようになればコミュニケーションができるという考えを捨て、相手のコンテクストを理解することなのです。

次回更新は、8月5日(月)を予定。


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第3回 <br />“Very interesting.”が「とても面白い」とは限らない <br />語学力よりも大切な、異文化を理解する気持ち

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