メディアに登場する経営者が率いる会社は、たいてい業績がいいものである。

 しかし、たとえ売上が増えても、社員の心をつかむことができない経営者はいる。メディアはそれを伝えないが、懲りない社長はいるのである。

 今回は、数年前に、社員らと対立した経緯を本にするなどして自分を売り込み、「自分は変わった」と“宣伝”しながらも、一向に社員の心を掌握できない女社長を紹介する。

 このような経営者が、あなたの身近にもいないだろうか――。

-------------------------------------------------------------------------------------------------
■今回の主人公
藤芳 愛里 仮名(36歳 女性)
勤務先: 関西にある中堅通販会社の女社長。従業員数は130人。自らの「経営改革」を本として著したり、講演を仕掛けたりと、広報には長けている。テレビやラジオ番組にも出演するなど、いまや、「人気者」である。しかし、社員を統率することは苦手。とくに古参の社員とのトラブルは絶えない。
-------------------------------------------------------------------------------------------------

(※この記事は、取材した情報をプライバシー保護の観点から、一部デフォルメしています)

自分をコントロールできない
“やり手社長”

 「やっぱり、あなただったのね。早く、みんなに謝りなさいよ。細川君はルーズだから、こうしたミスをするのよ」

 「すいません……」

 「常識がない人ね。だから、ダメなの。あなたは……」

 入社して半年の細川は、うつむいたままだ。営業部のフロアが静まり返る。

 細川は、昨日、資料を保管するロッカーの鍵をポケットに入れたまま、家に帰ってしまっのだ。今日の午前中から、営業部員はその鍵を探し続けた。

 夕方になり、取引先への訪問から戻ってきた細川を、社長の藤芳が問いただした。

 「早く謝りなさいよ!」

 細川が小さな声を出した。藤芳が詰問する。

 「そんな声では聞こえないでしょう。あなたは男じゃないの?」

 「……」

 「小さな声では聞こえない! だから、あなたはダメなのよ。半年経っても電話すらまともにできないじゃない。だから、あなたは……」