株式レポート
8月16日 18時0分
マネックス証券

日本株と法人減税を巡る混乱〜重要な投資材料は何か〜 - 村上尚己「エコノミックレポート」

来週の重要経済指標、主要企業決算についてPDF版のレポートで解説しています


夏休み期間で取引が閑散とした中で、今週日本株市場を動かす材料となったのは、法人減税を巡る報道だった。8月13日(火)日経新聞朝刊のトップ記事で「安倍晋三首相が法人税の実効税率の引き下げを検討するよう関係府省に指示したことが12日わかった」と大々的に伝えられた。

来年の消費増税の判断に注目が集まる中で、「法人減税」の話が突如浮上し、株式市場はこれを好材料ととらえた。法人減税は、企業の税負担が減るため、企業の最終利益やキャッシュフローを増やす要因になる。こうした素直な解釈で、株式市場では買い材料とされたわけである。

その後、8月15日に、菅官房長官が記者会見で、「(法人減税について)首相が指示した事実はない」とはっきりと、この報道を否定した。これと前後して、麻生財務大臣による「法人減税引き下げの効果は小さい」という発言もあり、13日(火)の日経報道で買われたこともあって、昨日は日本株が売られる格好となった(グラフ参照)。


筆者はこの一連の経緯について、報道の真偽そして株式市場の反応に違和感を抱いていた。まず、「首相が法人減税引き下げを指示した」というのが本当か?と疑ったのである。日経記事によれば、この情報ソースは「複数の政府関係者」という匿名である。匿名の発言が、首相官邸の意図を正確に反映しているか不明で、疑念を持った。

今回の法人減税の話は、消費増税とセットで実行されるわけで、消費増税を巡るいろいろな駆け引きがあり、そうした枠組みでとらえるべきことである。そう考えれば、なぜ、この話が「関係者発」の記事として報じられたかは想像できるだろう。

もう一つ、この記事の真偽を疑ったのは、菅官房長官が9月に発表されるGDP2次改定値をうけて、消費増税の実現について判断する、とすでに明言していたためである。消費増税のセットで法人減税を指示するというのは、「予定通りの消費増税が決まった」ということになる。それは、首相官邸のこれまでの立場と矛盾する。

そう考えたから、この報道が真実ならば、安倍首相(官邸)が3%の消費増税引き上げを決めたということだから、筆者はネガティブな報道ととらえた。法人減税で企業の負担が仮に数千億円規模で減っても、消費増税が8兆円規模で行われれば、日本経済全体にとっては圧倒的にマイナスで、経済の足を大きく引っ張る。金融緩和策で景気後退を免れたとしても、経済成長率は大きく減速するだろう。

脱デフレから抜け出す動きを見せ始めた日本経済にとって、大型増税に踏み出すリスクは依然大きい。そして、脱デフレを最優先として掲げるアベノミクスの方針転換である。結局、成長率が減速してデフレ圧力が高まるので、税率を引き上げても肝心の税収が増えないリスクに直面することになるだろう。

そう考える筆者にとっては、15日の菅官房長官による「首相が指示した事実はない」という発言を受けて、首相官邸の消費増税に対するスタンス、つまり各種統計などから9〜10月に判断するという方針が変わっていないことを確認したという意味で少し安心した。もちろん消費増税への最終的な判断がどうなるかまだわからないから、株式市場の買い材料としては物足りないかもしれないが、日本株の売り材料といは言えないだろう。

なお、安倍首相の経済ブレーンは、今週相次いで消費増税に慎重な発言を行っている。本田内閣府参与「まだまだ予定通りの消費増税の環境が整ったとは言えない」(8月12日)、浜田内閣府参与「2014年4月に8%、2015年10月に10%に税率を引き上げるタイミングについて、それぞれ1年先延ばしにすることも一案」(8月12日)、中原元日銀審議委員「来年秋まで消費増税は見送り、その後毎年1%ずつ5年間引き上げるのが望ましい」(8月13日)

消費増税の判断は、安倍首相によって最終的に行われる。今回の法人減税を巡る混乱による教訓は、匿名者がソースである記事を鵜呑みにせず、責任を持って意見を発する方の意見に耳を傾け、そちらを投資判断に生かすべきということである。




(チーフ・エコノミスト 村上尚己)

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(マネックス証券)


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