社会改革のためのイノベーションをもたらす
「触媒的イノベーター」の特徴

 以下、第3章「イノベーションのジレンマへの挑戦」で精緻化された対処法を示し、第4章「医療ビジネスのジレンマ」では米国医療ビジネスを分析します。そして第9章「破壊的イノベーションで社会改革を実現する」で対象を広げ、社会改革のための触媒的イノベーション論を展開します。

 触媒的イノベーションも、サービスが充実していない社会問題に対して、ベストではないものの、必要十分なソリューションを提供することで現状を打開する。触媒的イノベーションは、社会改革――時には国家レベルの改革にもなる――を対象とした破壊的イノベーションの一種といえる。(246ページ)

 担い手である触媒的イノベーターを調査したクリステンセンは、5つの共通点を発見します。

1. 広い範囲に及び、かつ反復性があり、社会に構造改革をもたらす。
2. 過剰に対応されている、あるいはまったく対応されていない課題を解決する。(後略)
3. 既存の製品やサービスよりもシンプルでコストが低く、またパフォーマンスで劣っていても、ユーザーが十分満足する水準の製品やサービスを提供する。
4. 初期段階で、既存のライバルに気づかれることなく、寄付金や助成金、ボランティアの援助、知的資本などの資源を獲得する。
5. 採算が取れないなどの理由から魅力がないビジネスモデルと決めつけられ、回避あるいは撤退する既存プレーヤーからは無視されたり軽視されたりするものの、場合によっては奨励される。(248ページ)

 そして興味深い実例を次々に取り上げていきますが、これは本書を精読してください。ハイテク企業ではなく、サービス業、NPOにとっても役に立つ論文です。

「イノベーションのジレンマ」を世に問い、<br />時代を生き抜く方法を提示した全論文集クリステンセン「イノベーティブな起業家」として挙げられた人々。
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 クリステンセンはイノベーターの特質を分析しています。実際に膨大な調査を行ない、優れたイノベーターの特徴として、「五つの発見力(ディスカバリー・スキル)」を挙げています(第12章「イノベーターのDNA」)。

1. 関連づける力 associating
2. 質問力 questioning
3. 観察力 observing
4. 実験力 experimenting
5. 人脈力 networking(327ページ)

 ネットワーキング以外の英語は耳新しいですね。非常に面白い調査で、しかもこれらのスキルは先天的なものではなく、学ぶことができると主張します。第12章にはこれらのスキルを獲得するためのハウツーまで書いてありますので、ぜひ手に取ってお読みください。

次回は8月29日更新予定です。


◇今回の書籍 27/100冊目
『C. クリステンセン 経営論』

 

「イノベーションのジレンマ」を世に問い、<br />時代を生き抜く方法を提示した全論文集

 

イノベーションを志向するすべてのプロフェッショナルたちへ。あの「イノベーションのジレンマ」から、最新の「破壊的イノベーションの時代を生き抜く」まで、『ハーバード・ビジネス・レビュー』誌に寄稿されたすべてのクリステンセン論文を収録したアンソロジー完全版。

クレイトン M. クリステンセン 著
DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集部 編訳
定価(税込)2,940円

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