“夢の新技術”に潜む罠
続出する再生医療トラブル

 最近、元気がないというある社長。「会社を売ってしまおうか」と漏らすのを心配した周囲の勧めで、ある治療を試した。すると肌のつやも頭の回転も元通り。元気があり過ぎて周りが逆に困ってしまうほどに回復したという。

 社長が体験したのは、幹細胞を使った再生医療だ。幹細胞は傷ついた細胞を取り換えたり、失った細胞を補完したりする。人の体は約60兆個の細胞でできているのだから、幹細胞を使えば病気やけがで悪くなった部分を治したり、脳の活性化や血管の若返りなどで体の内面から若さを取り戻す「アンチエイジング(抗加齢)」にも効くだろうというロジックである。

 幹細胞治療の一般的な流れを見ると、まず、患者のおなかから注射で脂肪を5グラムほど採り、そこから幹細胞を抽出する。次に、当初10万個程度の細胞を、およそ1ヵ月かけて専用設備で培養し、1億個以上に増やす。その幹細胞を点滴や注射で患者の体内に戻すと、傷ついた組織が再生していく、という流れだ。

 神田医新クリニックの横山博美医師は、冒頭のケースを含め2009年以来約400人に幹細胞治療を実施した。口コミで評判が広がり、リピート率は5割に達する。自身も10回以上幹細胞を打ち、効果を実感した。

 幹細胞治療は、アンチエイジング目的にとどまらず、糖尿病などの成人病の予防やがん、脳卒中、アレルギーなどさまざまな病気に対して行われている。自己治癒能力を高め、医薬品では治せなかった病気を治す「夢の新技術」とたたえる者もいる。