かつて、海外で石油・天然ガスなどのプラント建設を手がける日本の“専業エンジニアリング”でトップの座にあった千代田化工建設。2000年前後に倒産寸前の危機に陥ってからは「業界2位」に定着したが、この7月から反転攻勢に打って出た。(「週刊ダイヤモンド」編集部 池冨 仁)

 偶然というには、ずいぶん“象徴的”な組み合わせである。この7月4日、エンジニアリング会社の千代田化工建設は、海底に眠る油田やガス田などの資源探査を専門に行う英国のエクソダス社を約100億円で買収すると発表した。

【企業特集】千代田化工建設 <br />「LNG特化型」からの脱却 <br />長い低迷から“攻め”に転回今年7月に英国の企業を電撃買収。日本の企業がなかなか入れなかった海洋資源開発の領域に進出。
CG画像提供:エクソダス社

 この“エクソダス”という社名は、旧約聖書の「出エジプト記」から取られたもので、預言者モーゼがイスラエルの民を率いて“約束の地”(カナン)を目指してエジプトから大脱出を図るという物語に由来している。

 2005年設立のエクソダス社は、北海油田の資源開発で多くの経験を積んだ技術者たちが、北海以外で、専門知識や専門技術が生かせる“新たな活躍の場”を求めて立ち上げた技術系コンサルティング会社である。若い会社といっても、国際石油メジャーズの仕事を数多く手がけている。

 一方で、産油国や産ガス国などを相手にしてきた千代田化工は、陸上にある石油・天然ガス関連設備に関しては専門知識や専門技術を持っているが、洋上または海底のそれについては知見やノウハウを持たない。こちらもまた、過度にLNG(液化天然ガス)の仕事に依存する“現状からの脱却”を目指して、海洋資源開発への進出を模索していたのである。

 その背景には、今年4月に日本国政府が「海洋基本計画」を閣議決定して海洋資源開発を推進する方針を出したことがある。だが実は、もっと深刻な問題もある。

 現在、16年末までの生産開始を目指して、日本企業のINPEX(国際石油開発帝石)が操業主体となってオーストラリアの沖合で進めているイクシス・ガス田では、生産されるLNGの約70%が日本市場向けとなっていることから、官民の期待が大きい。

 このプロジェクトには、日本を代表するエンジニアリング会社の日揮や千代田化工も関わっているが、陸上の生産設備に限定されている。その一方で、洋上や海底の生産設備群は、すべて欧米企業や韓国企業が受注しており、悲願の“日の丸プロジェクト”でありながら、日本の企業は根幹の最上流部門(井戸元)にはまったく関与できていないのである。

 度重なる交渉の結果、意中の相手を射止めた澁谷省吾社長は、「日本のエネルギー安全保障を考えれば、この状況を打開する必要がある」と身を乗り出して力説する。