ソーシャル・イノベーションに関わると<br />なぜ、僕たちは元気になれるのか?<br />対談:井上英之×紺野登(中編)紺野登(こんの・のぼる)
多摩大学大学院教授、ならびにKIRO(知識イノベーション研究所)代表。京都工芸繊維大学新世代オフィス研究センター(NEO)特任教授、東京大学i.schoolエグゼクティブ・フェロー。その他大手設計事務所のアドバイザーなどをつとめる。早稲田大学理工学部建築学科卒業。博士(経営情報学)。組織や社会の知識生態学(ナレッジエコロジー)をテーマに、リーダーシップ教育、組織変革、研究所などのワークプレイス・デザイン、都市開発プロジェクトなどの実務にかかわる。

紺野 そのマインドフルについて、もう少し詳しく説明してくれませんか?

井上 マインドフルネスって、簡単にいうと、頭で分析ばかりしておらず、今、ここに心や気持ちがある状態のことだと思います。そういう状態だと、本の中でも書かれていたアブダクション(仮説的推論)を発揮しやすい。

 それと、ぼくはパーパスの「向こう側」にも興味があって、じゃあ事業の目的ってなんだろう、と問い続けると、中目的くらいまでは具体的ですが、大目的やもっと突き詰めると実はあり方(being)のことだったり、人によっては「ソース(Source)」と呼んだりする、すっごくいいチームが経験する、それぞれがより「大きなもの」につながっている感覚をもたらす何かにたどり着いたりする。個人がもともと無意識のうちに持っている「どうあろうとしているのか」、といったことにつながってくるんだと思います。

 科学的発明がどうやって生まれたのかを調べていくと、意外と、このアブダクションが関係していますよね。決して、演繹的なロジックの積み上げだけではない。子どもの頃、湯川秀樹博士の伝記を読みましたが、そこに中間子を発見した時のこんなエピソードが書かれていたのを憶えています。たしか、博士が「もうダメだ、わからない」と行き詰まって外を歩いていたら、木漏れ日が漏れてきて「これだ!」と思ったという。じつは、こういう能力って、誰もが潜在的に持っているものだと思います。それが、同じやり方で働いてばかりいる中だとなかなか見えない。

 ソニーの設立趣意書にある「自由闊達な理想工場」というのも、あれ、別にロジックじゃないですよね。だけど、なんかいいなあ、って感じがする。

紺野 そう、あれはロジカルじゃないから普遍的だし、メッセージとして心に響く。不合理性が合理性を導く。そもそも目的で人々が動くのは、金やロジックといった合理性でなく、信頼や価値観、パーソナルなビジョンなど、一見不合理なものなのだといえますが、それが結果的に経済的合理性を生みだすことになるのです。