**室長人材をヘッドハント

 阿久津は、応接ルームのガラスの灰皿で煙草の火を消しながら言った。

「まあ、そこに、座ったらええがな」

「お待たせして失礼しました。最新の組織図案を印刷していましたら、思いのほか時間がかかったものですから」

「ええで、かめへん。わし、時間あるから」

 添谷野は、阿久津の正面のソファに座った。

「ほんで、今度の組織は、どないなんのや?」

 添谷野は手に持っていた組織図を、阿久津が読めるように来客用のテーブルの上に拡げた。

「若干の配置換えや人の入れ替えはありますが、組織図そのものには大きな変更はありません。一部、社長のご意向を反映した部分はありますが」

「ほうか。社長は、どないしたいて言うとるんや?」

「今回の組織では社長の強い意向で、経営企画室を新設させます」

「なんやそれ。何させるんや。そんなもん、あってもなくても、どうでもええのんと違うか」

「社長は、他のことは任せるが、今回、この部署だけは絶対つくるということです。室長人材の中途採用も、ヘッドハンターを使ってかなり前から進めていたとのことです」

「しゃあないなあ。ヘッドハンターを使うたんか。また、金もかかるし、人件費もまた、かさむやないか。ヘッドハンターなんて使うのは、あんたの採用までで十分やのに」

 阿久津は、不愉快そうに眉をひそめた。添谷野も、阿久津が社内で「経費削減の鬼」と呼ばれて恐れられているのは知っていた。

「社長がご自身で面接され、もう内定の指示が出ています。その方は、この組織が発効になる再来週から出社されることになっているそうです」

 添谷野は、その採用には自分は関与してないことを言外に匂わせる表現をした。