大手紳士服チェーン「しきがわ」の販売スタッフ高山 昇は、経営幹部の逆鱗に触れ、新設の経営企画室に異動させられてしまう。しかし高山は、持ち前の正義感と行動力を武器に、室長の伊奈木やコンサルタントの安部野の助力を得ながら、業績低迷が長引く会社の突破口を探すべく奮闘。若き経営参謀として一歩ずつ成長する――。企業改革に伴う抵抗や落とし穴などの生々しい実態をリアルに描く『戦略参謀』が8月30日に発売になりました。本連載では、同書の第1章を10回に分けてご紹介致します。

**突然の異動

「高山。お前、営業から外されたのか?」

 郊外を中心に展開する紳士服チェーン「しきがわ」の本社食堂で昼食をとっていた高山昇に、商品部バイヤーで同期の沼口照一が話しかけてきた。

「うん。そういうことになった」

 高山は食べはじめたばかりのランチの手をとめ、沼口の顔を見上げた。

「お前、何やったんだ?」

 沼口は、あじフライの載ったランチトレーを手に高山の前に座った。

「声が大きいって。今、人が多いんだから」

 沼口はまわりを見まわしたが、二人の会話に興味を示しているものはいなかった。

「大丈夫だ。それに俺くらいだろ?こんなことをお前にストレートに聞いてやれるのは」

「そりゃ、そうだけど」と高山は言った。

「お前また、場をわきまえずに、何か余計なことをしゃべったんじゃないか?」

「別に、そんなつもりじゃなかったんだけど……。今の店舗の給与制度のことで気になっていることを話しただけ」

「いつ、どこで?」

「先週の総本店の全体朝礼の時」

「朝礼?じゃ、店のメンバーに話したんだな?」

「うん。だけど、今は店の創業祭だから、本社から販売応援に来ている人も何人かいた」

「ふーん。でもその人たちって、どちらかといえば、お前の『高山節』を、おもしろがって聞くだろ?」

「いつもはそうなんだけどね。今回は総本店の創業祭イベントの初日だったからエラい人も来てた」

 高山は余裕を見せようと微笑んだが、残念ながらその笑顔は引きつっていた。