大手紳士服チェーン「しきがわ」の販売スタッフ高山 昇は、経営幹部の逆鱗に触れ、新設の経営企画室に異動させられてしまう。しかし高山は、持ち前の正義感と行動力を武器に、室長の伊奈木やコンサルタントの安部野の助力を得ながら、業績低迷が長引く会社の突破口を探すべく奮闘。若き経営参謀として一歩ずつ成長する――。企業改革に伴う抵抗や落とし穴などの生々しい実態をリアルに描く『戦略参謀』が8月30日に発売になりました。本連載では、同書の第1章を10回に分けてご紹介致します。

**配属前の情報収集

 高山は1人で、会社近くの居酒屋「橘駒」にいた。

 いつもは夜9時を過ぎると総本店の販売員や本社のスタッフのたまり場になる店だが、午後6時前という時間に仕事をあがれる社員はしきがわにはほぼ皆無なため、高山以外に客はいなかった。

 沼口に呼び出されて高山は「橘駒」に来たが、今は仕事が忙しいわけでもなく、待ち合わせ時間よりも早めに着いてしまい、1人で席に座っていた。

「あ、高山さんですよね?」

 店に入ってきた元気のいい20代の女性が、いきなり高山を見て寄って来た。

「うん。えーっと、君はうちの社員だよね」

「はじめまして、相澤庸子です」

 高山には見覚えがある顔だったが、どこの部署だったかは、わからなかった。

「君、本社の人だよね?」

「はい、そうです。この間まで総務部にいました」

 相澤は、高山の前の席に座った。

「なんで、僕のこと知ってるの?」

「高山さんは、ずっと総本店にいらっしゃいましたよね。今度、私たちは同じ部署になるんですよ」

「あ、じゃ、君は経営企画室の人なんだ」