「農業・医療の規制が緩和されれば
成長戦略は成功する」の誤り

 アベノミクスの成否を決めるのは「成長戦略」であり、その真価は既得権益に切り込む「規制緩和」をどこまで進められるかで決する――。

 多くのメディアはそう繰り返してきた。そして最終的には、規制緩和に強烈な抵抗をしてきた農業界、医療界の「岩盤規制」を切り崩せるかどうかでアベノミクスの成否が決まるというゴールセッティングが、いつの間にか出来上がってしまった。

 たしかに既得権を守ることに汲々としてきた農業、医療への切り込みは、もはや避けて通れぬ国家的ミッションである。深刻な担い手不足の農業界や、人口減少で国民皆保険の前提が崩壊しつつある医療界の、近未来には希望のかけらもない。日本の将来を考えれば、安倍政権が「岩盤規制」に切り込むことへの期待は高まる一方である。またそれは是が非でもやらなければならない。

 だが、「岩盤規制」が規制緩和のベンチマークであるかのような認識は誤りだ。傍目にはどうということもなく見えるが、当事者にとっては途方もなく大きな壁となり、活力を奪っている規制が世の中にはごまんとある。役所にとっては規制こそパワーの源泉だ。規制で民間企業の首根っこを押さえ込んでいればこそ、天下り先も確保できる。

 楽天の三木谷浩史社長が先導した医薬品のネット販売解禁のような派手な規制論議の影に隠れた、一見些細に見えるが、民間企業にとって重大な障害となっている無数の規制を切り崩すことの方が、どれだけ日本の成長性を高めるかわからない。

 役所は巧妙に規制をするが、規制緩和を政治に強制された時、彼らはさらなる巧妙さを発揮する。時の政府の意向に従って表向きは規制緩和をしたように見せかけるが、緩和の実態などまったく期待できぬまで骨抜きにしてしまう。規制を緩和したふりだけする。見せかけだけの規制緩和でやりすごす。それが霞が関である。

 象徴的な事例を紹介しよう。

 沖縄県にのみ許されてきた3つの経済特区の実態をみると、役所の悪質ぶりが手に取るようにわかる。