2. 個人消費は2倍に拡大する

 第2の要素は、個人消費の拡大です。中国は、GDPの構成比中、現時点で個人消費が3割台(2012年は35%程度)にすぎません。ちなみに日本は約6割、米国は約7割にのぼります。

その最大の理由は、「老後の安心」を保障する養老保険(日本でいう公的年金(国民年金・厚生年金)に相当する社会保障の要)の対象範囲が一部の都市労働者だけに限定されていたため、老後への不安が支配的となり、貯蓄性向が異常に高かったことにあります。

 そこで、中央政府は個人消費の活性化を図る目的で、農民工など地方からの出稼ぎ労働者が複数の都市を転々として定年退職後に故郷の田舎に戻っても、各地における養老保険の累積納付データをもとに養老保険を適切に受給できるように、制度改革を推進しています。

 2010年以降に本格化したこの国家的な努力が短期間で完成することはないでしょう。ただし、次の辰年(2024年)あたりという長期で考察する場合、制度改革の進展と国民的認知が広がり、老後への不安が徐々に解消されるにつれて貯蓄性向が低下して、消費性向が高まると予想されます。その結果、個人消費が仮に日本の水準まで伸びれば、3割台(35%程度)から6割と「1.7倍」に、またアメリカの水準まで伸びれば「2倍」に伸びる換算となります。

 消費の拡大は、貿易依存度(輸出入貿易額の対GDP比率)の低下という観点からも裏づけられます。これまで中国のGDP構成において、貿易依存度が2007年時点(2008年9月15日に起こったリーマン・ショックの前年で、世界的に景気が良かった最後の年)で約4割(38.4%)を占めていました。しかし、2020年のGDPを2010年比で倍増させる過程で、貿易依存度は低下し、輸出に頼ることはできなくなるでしょう。

 2012年11月の中国共産党第18回全国代表大会で2010年の賃金を2020年に倍増させる計画が標榜されたうえに、人民元高も進むので、輸出減少圧力が働くことになります。貿易依存度が継続的に低下していく予想のもと、なおGDPを倍増させるには、それを補うものが必要になります。

 中国の国債発行残高は2012年末で7.7兆人民元(約116兆円)と、国家財政は健全です。このため財政出動を図る余地は大きいのですが、建設投資の大幅拡大を図るだけでは無駄な建築物を大量に現出させるだけに終わり、社会的弊害も大きいことは、リーマン・ショック直後の2008年11月に決定された4兆人民元の大規模財政出動を通じて経験済みです。したがって、建設投資の増加は、GDP倍増過程において主要な役割を果たすことが予想されるものの、過度に依存することはないでしょう。