しかし、人民元は2009年より、国際通貨としての道程を歩み始めています。中国と香港の間はもちろん、日本との間でも、貿易取引において人民元で決済できる制度が導入されました。次の辰年(2024年)までの長期で見た場合、人民元が日本円や米ドルと同様に自由に取引される国際通貨性を獲得する可能性は十分にあると思われます。

 そうなった場合、リーマン・ショック以後、アベノミクス開始までの間、安全資産として円が極端に買われ、最高値75円32銭(2011年10月31日)という異常な円高を記録したのと同様の現象が、国際通貨性を獲得した人民元に生じないとは限りません。なんといっても、日本、アメリカ、欧州という財政難の先進国を尻目に、中国の財政事情は現状では極めて健全です。この傾向に変化がなければ、人民元こそ究極の安全通貨であるとの見方が、次の辰年(2024年)までに確立される可能性があるでしょう。

 このようにして、人民元が国際通貨性を獲得した後に、中国政府のコントロール力が相対的に低下せざるを得なくなることと相まって、人民元高の「漸進」性が後退し、「弾力」性は向上し、次の辰年(2024年)までの長期で見ると、「2倍」論が実現する可能性は相当高いと考えます。

中国の消費市場拡大が意味すること

 中国の消費市場が次の辰年(2024年)までに「8倍」になるというのは、最も楽観的なシナリオです。とはいえ、仮に8倍に届かなかったとしても、数倍というレベルを達成することは間違いありません。たとえばGDP2倍が達成され、個人消費が1.5倍、人民元高が1.5倍に終わったとして、それでも全体で4.5倍の成長です。

 中国のGDP水準が日本のそれを追い抜いたのはつい先ごろ(2010年)です。しかし、そのわずか2年後の2012年に、中国のGDP水準は約8.22兆米ドルと、日本の約5.96兆米ドルの約1.38倍まで成長しています。わずか2年で、40%近い規模の乖離が生じているのです。この事実から見ても、引き続き中国の消費市場が成長することは間違いないでしょう。

 世界第2位の経済規模の国家がこれだけ成長するならば、アメリカのGDPを追い抜くことがあるのか、それはいつかという興味深い問題はありますが、はっきりしているのは、日本よりもはるかに大きな消費市場が飛行機でわずか2〜3時間の近さにある隣国に登場するという歴然たる事実です。

 このため、毎期の利益を確実に増加させる責務を負う上場企業はもちろん、中堅・中小企業ですら中国市場を無視できないでしょう。社長、会長が嫌中だからという理由で、中国の消費市場の活力を取り込む試みさえ否定する企業があるとすれば、上場企業であれば、善管注意義務違反の謗りを免れないものと思います。

 大国・中国と対等の隣人として付き合うためにも、今こそ日本の良識ある人びとは、中国と中国人を深く理解するように努力すべきであると確信します。隣人である巨人がどのように考え、物事を進めるかの基礎的理解なくして、対等の関係を維持することは難しいでしょう。嫌中感情はいったん横に置いて、日本を守るためにも、今こそ中国と中国人に真剣に向き合うしたたかさを持つべきではないでしょうか。

次回は9月9日更新予定です


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