口内炎と思っていたら舌がんが見つかった
飲料メーカー研究所責任者のJさん(45歳)

繰り返す口内炎を放置し
新商品を味見し続ける

 Jさんは飲料メーカー研究所の責任者だ。入社以来、新製品の開発に携わってきた。Jさんは、毎朝出社するとまず自社工場で生産されている、すべてのドリンクの味見を行う。

 数字では表せない味の違いがわかるようになるまで20年以上かかると言われ、微妙な味の違いを的確な言葉で表現でき、部下に指示できないと、この仕事は勤まらない。お茶やコーヒーの産地の違い、煮出す方法や時間の違いが舌ですべて判別できるようになるまで、日々の訓練を行なっていくしかない。

 入社以来、強い刺激の味や、臭いは味覚を狂わすので、なるべく触れないような生活を心がけてきた。1日3回行う歯磨きでは、界面活性剤や香料の入っていない石鹸成分だけで作られた歯磨き粉を使っていた。この歯磨きを使うと、口の中がスースーしないので、すぐ仕事にとりかかれるのだ。

 ここ数ヵ月は、舌の同じ場所に口内炎ができることが気になっていた。熱いドリンクを試飲するときに、その口内炎に痛みがあるのだ。とはいうものの、たまに痺れがあっても、日常生活をおびやかすほどのことでもない。

職場の近所の歯医者で定期検診
なぜか大学病院を紹介される

 口内炎ができはじめて3ヵ月後、Jさんは歯の定期検診に行った。歯石や歯槽膿漏などがあると味覚の判定に支障が出てしまうため、年に2回は歯の検診に行くようにしていた。そして定期検診後、歯科医師から思わぬ言葉を言われた。

 「Jさん。この口内炎はいつからできていますか?少し気になるので大学病院の口腔外科で詳しい検査を受けてください。紹介状を書きますからなるべく早く行くように…」。

『口内炎で大学病院?』

 気になったJさんは、その夜自宅のパソコンで口内炎に関することを調べた。すると、思わぬ事実が分かった。なんと口内炎だと思っていた腫瘍は、舌がんかもしれなかったのだ。