「SPAという仕組みを持っているか否かは、企業にとって実はあまり重要でないかもしれない」

 このように指摘するのは、アパレル業界に詳しい伊藤忠ファッションシステムの辻田泰子氏だ。

 消費者の節約志向が続くファッション業界を中心に、関係者に注目を浴びている企業戦略“SPA”(製造小売)。その仕組みをごくシンプルに言えば、「製造から小売までを一貫して行なう小売業態」である。

 これまで分散していた全てのプロセスを自社でコントロールすることにより、中間マージンのカットやお客の声を反映した商品作りが可能になるため、「事業をより効率化できる」と言われている。

 この言葉を世に広めた立役者は、カジュアル衣料品専門店「ユニクロ」を展開するファーストリテイリング(以下ファストリ)だ。

 確かに、保温肌着「ヒートテック」や「ブラカップ付きウェア」など、昨年から立て続けに大ヒット商品を連発し続ける同社は、乗りに乗っている。2009年8月期の売上高は対前年比約16%増の6820億円、営業利益も同約23%増の1080億円と過去最高に達する見込みだ。ユニクロの快進撃により、「SPA企業は皆好調」というイメージさえ定着しているフシがある。

 ところが、話はそう単純ではない。第1回目でも紹介したとおり、「同じSPA企業でも、成功しているケースの方が少ない」というのが実情なのだ。冒頭の辻田氏の言葉は、「SPA業態に移行するだけで成果を出せるほど、甘いものではない」ということを物語っている。

仕組みだけ導入しても成果なし?
巷に溢れる“なんちゃってSPA”

 実際、SPAに参入している企業のパターンはさまざまであり、成功を約束されたモデルケースなど、何一つない。

 「SPA企業と言っても、製造から小売までを自社で一貫して手がけているケースは稀である。また、メーカー系と小売系では、目指す方向性や仕組みがかなり異なっている」(松井和之・矢野経済研究所・ファッション・スポーツ&リテール事業部上級研究員)。

 にもかかわらず、そのことを斟酌せずに、「イメージアップを狙って形だけSPAを始めたものの、ちっとも成果を出せない“なんちゃってSPA企業”がたくさんある」(大手アパレルメーカー関係者)という。

 では、SPAという仕組みを社内に浸透させ、自社の強みを引き出している企業には、どんなパターンがあるのか? 実例を紹介しよう。