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アマデウスたち

中川 聰
意識の境界を取り払い蘇らせる自由

週刊ダイヤモンド編集部
【第77回】 2009年5月8日
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中川 聰
写真 加藤昌人

 脳性麻痺のたった一人の女性のために、3ヵ月を費やして箸をデザインした。青森県産の桧葉(ひば)材を、中指をかけて持ちやすいように削って窪ませ、転がらないようになだらかな角を持たせた。機能を超えて十分に美しい。今は日本航空国際線のファーストクラスでも採用されている。

 アーティストたることを望んではいない。「生きていくとどんどん不自由になって、孤立するように社会ができている。障害を抱える人も同じ。車椅子に乗っていても、赤いハイヒールだって履きたい。使い手が自由になるデザインで、意識の境界線を取り払いたい」。

 実際にデザインに取りかかる前の、障害者へのリサーチは、1年で約2000人近くに及ぶ。瞬間接着剤で指をとめて繰り返しモックアップをいじる。多忙なスケジュールを掻い潜るように、子どもたちや障害者と一緒に自分の足で街を歩く。

 ベンチのないバス停、急なスロープ、進行を遮る電柱。新しい気づきが積み上げられていく。企業や政府を巻き込んだこのプロジェクトは、海を越え、アジア各国に広がっている。

 なぜ、障害者に拘るのか。「センチメンタルではない。神様がチャレンジを与えている彼らが、ただ好きだから。彼らはデザインのカナリアだ。私はちっとも自分を信じちゃいない。ごまかしや言い訳や嘘を重ねて見えなくなった私に、彼らは繊細な感性で、気づきを教えてくれる。そのとき生きている実感が蘇る」。

(『週刊ダイヤモンド』編集部 遠藤典子)

中川 聰(Satoshi Nakagawa)●プロダクト・環境・福祉デザイナー 1953年生まれ。中学校の美術教師を務めた後、アートセラピーなど造形心理学を学ぶ。千葉大学大学院美術研究科修了。現在、トライポッド・デザイン代表取締役。東京大学大学院工学系研究科特任教授を兼任。主な著書に『ユニバーサルデザインの教科書』(日経BP社)。

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