統計学の威力を適切に利用したいなら、やってはいけない注意事項がいくつもありますが、そのなかでもとりわけ大切なのは「サンプルデータの偏りを避ける」ことです。インターネット調査は、この点で致命的な欠点をもちます。

 インターネット調査であることの偏りを補正したはずなのに、図表4をみると、高齢者については補正ができていなかったことが明らかでした。優れた統計手法を駆使しても、十分な補正ができないほどの強い偏りがあったからでしょう。

 総務省の2つの調査ーーー人口とインターネット利用率の調査に基づいて、私が「インターネット調査は人口のどれくらいの割合をカバーできるか」を、男女別・年齢別に計算して整理したものが、図表6です。おおまかに区切ると、60歳未満の成人(20〜50歳代)人口の93%は、インターネット調査によってカバーできます。

 しかし、60歳以上の人口でみると、インターネット調査がカバーできるのは49%だけです。70歳以上の女性となると、カバー率は30%を切ります。対象者の約7割の人たちからサンプルを抽出できないことは、大きな問題です。

 わかりやすくいえば、「インターネット調査のうち、60歳以上の高齢者についてのデータは参考にすべきでないーーー参考にすると、まちがった結論が出る危険性が高い」と、肝に銘じておくべきです。冒頭で題材にした雑誌は、おそらくこの欠点をよくわかっているために、65歳以上の人たちに対する調査をあきらめ、さらに、グラフを示すときに60〜64歳のデータだけを省略したりしたのでしょう。

 また、日本交通公社の分析は、インターネット調査の問題点をはっきりと意識したうえで、しかし、統計学的な手法での補正を過信したために、大失敗していました。これらの事例では、「膨大な量のデータ=ビッグデータ」が集められるインターネット調査と、ある程度の問題点なら補正できる「統計学」の威力を過信したことで、日常的にデータの分析をおこなっているはずの人たちが、いとも簡単に、データ分析に失敗しています。

 日本での「ビッグデータ&統計学ブーム」の危険性が、これらの事例に集約されていると、私は考えます。しかも、若者もふくめて人口が増えているアメリカと異なり、日本では、人口減少と少子高齢化が進行し始めていて、さらに加速する見込みです。日本では、たいていのビジネスにおいて、高齢者は相対的に“上顧客”のはずです。

 図表6で示した問題があるために、インターネット調査は、日本ではビジネスの参考にならない。そう考えるほうが無難です。インターネット調査を参考にすると、裕福な高齢者を軽んじて、貧乏でネット上での無料に慣れた若者に重点を置く、愚かなマーケティング戦略や価格戦略を選びやすくなるでしょう

※次回公開は9/18です


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