株式レポート
9月9日 18時0分
マネックス証券

9月前半・重要イベントの総括 - 広木隆「ストラテジーレポート」

1. 米国雇用統計と量的緩和縮小開始のタイミング

僕は開き直った物言いで知られている。身も蓋もないというか、一橋大学大学院の楠木建教授に言わせれば、「それを言っちゃあ、おしめえよ」的な言い方なのだそうだ。その僕が唖然とした論説がある。「誰も信じないのに注目される中国の統計」という記事である(9月5日付け日経新聞電子版)。

<「中国の指導者さえ信じていない中国の統計をなぜ日本の新聞は載せるのか」。中国の統計が必ずしも実態を反映しておらず、李克強首相ら指導者も参考程度にとどめているようだと指摘したところ、読者から問い合わせがあった。不確かな統計を新聞はなぜ報道するのか。取り上げることで、正確な統計と受け取られてしまわないかとの懸念だ。メディアも危険性は十分に承知しているのだが、それでも掲載するのには理由がある。

株式などマーケットは中国の統計を相場の材料としており、数字しだいで世界の相場が変動するからだ。メディアは統計が正確かどうかではなく、経済活動に必要な情報として紹介している。これは米国の雇用統計にもあてはまる。雇用統計の数字は変化が激しく、マーケットが過剰反応しやすい。速報値と改定値で数字が変わることも多く、速報値は不確かな情報ともいえるが、それでも速報値を伝えるのは市場を動かす重要情報だからだ>

なんという言い草だろう。速報値の信頼性はともかく、それを見てマーケットが動くので、メディアとしてはその材料を提供するだけだというのだ。僕が唖然としたのは、呆れたからではない。その逆である。よくぞここまで本音を書いたなと感心しているのである。

雇用統計の発表に係るお祭り騒ぎには辟易としていると前回のレポートでも書いたが、事実その通りである。雇用統計が発表される金曜の夜にはネット証券各社によるオンライン・セミナーの開催が花盛り。「雇用統計・実況中継!」(これはマネックスだ)、「ライブ!雇用統計ナイト☆」、「雇用統計探検隊!」、「雇用統計だよ!全員集合」「雇用統計だよ!おっかさん」、等々、ほとんど馬鹿騒ぎしているとしか思えない(半分は僕の創作だが)。

雇用統計はブレやすい。そしてマーケットは過剰反応する。フラッシュ(速報値)が流れる。それが予想を上回ったか下回ったかで市場が動く。それはほとんど反射神経の勝負だ。実際にニュースのヘッドラインに反応して売買注文を出すようにプログラムを組んでいる高速取引のヘッジファンドも多く存在している。人間の判断は挟まないで、まさに機械的に売買するのだ。

もう、こうなってくると丁半博打さながらである。速報値が予想より上か下か。判明した瞬間にドル円レートなら1円くらい簡単に動くのである。

先週金曜日に発表された非農業部門の雇用者数(NFP)は前月比16万9000人の増加と、市場予想よりも小幅な伸びにとどまった。さらに過去2か月分も下方に改定された。7月分は16.2万人から10.4万人、6月分は18.8万人から17.2万人にそれぞれ下方修正された。NFP20万人増との僕の予想は見事に外れた。「気持ちいいくらいの大外しですねw」などとツィッターで笑われたりもした。

予想が外れたのは、確かに面目ないが、市場の反応には正直呆れた。ニューヨーク外国為替市場のドル円相場は雇用統計を受けてドル安円高で反応。1ドル99円10〜20銭で終えたが、一時は98円台半ばまで円高が進む場面もあった。予想を下回った雇用統計を受けて一気に1円以上円高に振れるというのは、前回とまったく同じ展開。ちょうど1か月前の雇用統計発表時の再現となったのだ。

前回のレポートで述べたことを繰り返す。雇用統計の毎月の速報値というのは、所詮、誤差の範囲内の争いなのである。速報値が16.9万人増で18万人増加を見込んだ市場予想に届かなかった、というのは、非農業部門の雇用者数が、予想された1億3614万4000人ではなく、1億3613万3000人でした、ということである。1億3600万人レベルの予想をしているなかで1万人の誤差というのは、あってないようなものである。こういうレベルの話で、予想を上回ったの下回ったのでドタバタ騒ぐものだから、そりゃあ「雇用統計はブレやすい」って当たり前だよ。

グラフ1はNFPの値である。グラフ2がその前月差。前月からの伸びだけを見ると、ばらつきがあるように思える。すなわち、雇用の伸びにばらつきがあるというのは、強弱がついているように見えるということだ。しかし、それを巨視的に捉えれば – すなわち部分ではなく全体を見たのがグラフ1である。8月のNFP実績1億3613万3000人を10 センチメートルで表示したとすると、予想値の棒グラフの高さはいくらになるだろうか?10.0008センチメートルである。0.008ミリメートル棒グラフが高くなっていたはずである、ってそういうレベルの話なのである。雇用統計というマクロの話なのに、これでは「ミクロの決死圏」である(古い?)。





言わんとする点は、まさにこのことである。もっと「マクロ」に見ないといけないということである。米国の労働市場がどのような状況にあるのか、その趨勢を判断することが重要である。

米国の雇用者数はリーマンショック前には1億3800万人に達していた。それがリーマンショックで900万人の雇用が吹き飛んだ。しかし、その後5年をかけて消失した分の雇用を取り戻してきたのだ(グラフ3)。



現在の17万人増/月というペースが仮に1年続けば雇用者数は200万人増える。現在、1億3600万人の雇用者数があと200万人増えたら、リーマンショックで失った雇用をすべて取り戻す水準に回復するということである。現状は、そういう水準を視野に捉えるところに来ている。FRBが非伝統的な金融政策(すなわちQE)を縮小に向かわせるのを検討するに至って不思議はないのである。今月17-18日に開催されるFOMCでは市場の大方の見方どおり、テーパリング開始が決定されるだろう。

ちなみに冒頭に引いた日経の記事「誰も信じないのに注目される中国の統計」はこう結ばれている。 <中国の統計は正確ではないかもしれないが、経済のトレンドは反映している。統計の特徴を知れば、市場取引だけでなく、ビジネス戦略の基礎データとして役立てることも可能だ。だが、特有のクセを知らなければ怪しげな数字にしか見えない。中国の統計が厄介なのは、それがデタラメだからではなく、真実も含んでいるからだ>

個々には正確ではないかもしれないが、全体のトレンドは反映されている。個と全体の関係を知ることこそ、統計を使う極意である。

2. 2020年東京オリンピック開催決定

このレポートのタイトルにある通り、ここで述べるのは「総括」であって、「各論」ではない。五輪関連銘柄のリストや、過去の開催都市決定からの株価パフォーマンスなどは、こちらのサイトを参照してください。

日曜の早朝、ブエノスアイレスで開かれていたIOC総会の様子をテレビで観ていた。イスタンブールとの決選投票。静まりかえった会場でロゲ会長が「東京」と読み上げた瞬間、大きな歓声と拍手がわき上がった。抱き合って喜ぶ招致委員会のメンバーたち。「本当に泣いてました、私」と滝川クリステルさんは語った。テレビの画面からも歓喜の涙が見えた気がした。



2020年、東京オリンピック。この瞬間をテレビで観ていた日本人の多くは、あるいは後の報道で知った多くのひとたちは、きっとこう思ったに違いない。「2020年、あと7年後、俺、何してるかな?」「私、どこでどうしてるんだろう?」 多くのひとが7年後の自分に思いを馳せたに違いない。将来のことを考えたに違いない。それが、東京五輪招致成功の最大の成果だと思う。多くの日本人の目を将来に向けさせたのだ。将来を考えなくては一歩踏み出せない。いや、考えても踏み出せないひとは多い。しかし、鶏と卵ではなく、この順番ははっきりしている。まず未来を思うことが先である。茫洋としたものでもいいから、未来に目を向ける発想がなければ物事は前に進まない。ひとは前向きにならない。未来に目を向けることからすべてが始まる。まさに、ここから始まるのだ。

招致委員会の試算では経済効果は3兆円。それはスタジアム建設など直接投資分しか含まれていないため、民間の一部では波及効果は150兆円にも及ぶとの声があがる。実際のところはわからない。これからいろいろな計画が練られ、徐々に具体化し、動き出すことだろう。

ビジネス、つまり企業サイドの動きだけではない。消費者としてこの国の経済を支える一般のひとびとの思考や生活にも変化が見られるだろう。当社CEO松本大は自身のブログでこう述べている。

<今子供を作って東京オリンピックに連れて行こう!という形で出生率も上がるかも知れません。6―7歳ならばちょうどいい年頃です。それより小さいとオリンピック分からないし、それより大きいと一緒に来てくれないかも知れないし。そもそも日本が7年後にポジティブで具体的な目標を持つということ自体が大きなマインドセット・景気浮揚効果があるでしょう>

それより大きいと一緒に来てくれないかも知れないし...。そんなことはないだろう。少なくとも僕の娘は、パパと一緒にオリンピックを観にいってくれるはずだ。今、7歳で小学校に毎日送っていっているが、最近は「パパ、もうここまででいいから!もうついて来なくていいからっ!」と妙に拒絶されているが、きっと7年後には、パパと一緒にオリンピックを観にいってくれるはずである。

大成建設が13%高と急騰し、三井不はじめ不動産株が軒並み買われた今日の相場展開をみるまでもなく、五輪関連銘柄は建設、道路、セメント、不動産(含む電鉄・倉庫などの土地持ち企業)、広告代理店、警備、スポーツ、消費・小売、観光・旅行、そしてちょっと変則的にカジノ関連。

五輪を機に東京を造り変える、東京が生まれ変わる – そう考えれば、首都・東京の価値が高まる。東京の地価上昇の恩恵が大きい不動産株が有望だと思う。建設や観光、そのほかは特需効果であるが、不動産価値の向上はずっと残るものだ。東京2020オリンピック・パラリンピック招致委員会が発表した「競技会場プラン」によると、国立競技場を中心とした「ヘリテッジゾーン」と、湾岸エリアを中心とした「東京ベイゾーン」を中心に28競技が行われる予定だという。この「ヘリテッジ」とは「遺産」である。2020年のオリンピックが終わっても、東京のランドマークとして残り続ける遺産。それを建造しようというのだ。それは東京の土地の価値を高めるに違いない。

ここまでは、ありきたりの議論である。僕が期待しているのは電機産業である。パナソニック、ソニー、シャープ、キヤノンなど映像・画像分野に高い技術を持つ電機メーカーのイノベーションに期待したいのである。オリンピックを美しい映像で伝えたい、撮りたい、残したい、観たい、というモチベーションを消費者とメーカーが共有できる。それが革新的な商品開発につながれば。東京オリンピックは「ニッポン復活」をスローガンに掲げている。この五輪が日の丸・電機産業の復活につながる可能性に期待したい。

3. GDP改定値

本日寄り付き前に発表された2013年4〜6月期の国内総生産(GDP)改定値は、実質で前期比0.9%増、年率換算で3.8%増となり、速報値(0.6%増、年率2.6%増)から大きく上方修正された。設備投資や公共投資の改定値が速報値を上回ったためだ。

これを受けて消費税増税へのハードルがひとつクリアされたとする向きが多いが果たしてそうだろうか。

見過ごせないのが総合的な物価の動きを示すGDPデフレーターが前年同期比マイナス0.5%と速報値(マイナス0.3%)から拡大した点である。GDPデフレーターは国内物価と輸出物価指数の合計から輸入物価指数を引いて算出される。円安で輸入物価が上昇すればそれはデフレーターの下押し圧力となる。今回の改定値でデフレーターのマイナスが拡大しているのは、輸入物価の上昇を国内価格に転嫁しきれていないことを示す。円安で原油価格が上昇し、それを受けた電気料金も値上がりする。ガソリンと電気料金上昇を受けた消費者物価指数(CPI)が上昇に転じた ところで、GDPデフレーターのマイナス拡大は日本がデフレ傾向から抜け出せていない実態を表している。

そんな状況下で消費税を上げたらどうなるか?増税分の価格転嫁が進まず、中小企業は泣き寝入りするしかない。1%ずつの段階的増税も中小企業の首を締め付け続けるだけである。本来はデフレ脱却が完全に見通せる段階での増税が望ましいのだが。

果たして10月上旬の首相の判断はいかに。このGDP改定値だけではまったく判断材料にならないと思う。




(チーフ・ストラテジスト 広木 隆)

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