ウォール街との人材獲得競争

 金融部門が存在感を増すようになると、マッキンゼーはウォール街との人材獲得競争に巻き込まれることになった。ウォール街は莫大な報酬で優秀な人材を引きつけるようになり、その結果、若手であるアソシエイトの離職率は跳ねあがった。こうしてマッキンゼーはコンサルタントへの給料を上げざるをえなくなった。

 1990年代なかば、マーヴィン・バウワーはコンサルティング業界で拝金主義が強まっていることに危惧をあらわしていた。バウワーはクライアントに奉仕するというマッキンゼーの価値観を守るために、会社の株式公開やコンサルティング料としてクライアント企業の株式の一部を受け取ることに対して、一貫して反対を唱えてきたのだった。いずれも、コンサルタントの第一の動機が金銭になることを恐れての反対だった。

 1993年の推計によると、マッキンゼーのディレクターの給料はボーナスを合わせて年200万ドルあったという。若手の場合、アソシエイトは年に10万ドル、プリンシパルは25万ドルだった。また、アソシエイト側(従業員側)とディレクター側(経営者側)の給料格差も拡大していた。一時、MDの収入はアソシエイトの35倍にのぼったという。

 この傾向は、ラジャット・グプタがMDの地位にあった期間にいっそう進んだという。グプタは世界進出を推し進めると同時に、ウォール街の金融機関とより親密な関係を築いていった。1996年の時点で、マッキンゼーはSBCウォーバーグ、リーマン・ブラザーズ、HSBCキャピタル、スイス再保険会社、モルガン・スタンレー、ゴールドマン・サックスといったそうそうたる企業の役員室にOBネットワークを持っていた。

 2000年以降に明るみに出た、マッキンゼー関係者が関与したとされる数々の疑惑の背景には、このような流れがあった。元マッキンゼーのコンサルタント、ジェフ・スキリングが首謀者だったといわれる天然ガス取引大手エンロンの巨大詐欺事件、そして元ディレクターのアニル・クマール、そしてラジャット・グプタ自身が関与したインサイダー取引疑惑、いずれもマッキンゼーがウォール街と接近したことにより起きたといえるだろう。

次回の掲載は9月25日です。次回からは9月20日刊行のダフ・マクドナルド著『マッキンゼー――世界の経済・政治・軍事を動かす巨大コンサルティング・ファームの秘密』の序章を5回にわたり公開していきます。


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