序章 マッキンゼーとは何者か:
ビジネス界の特殊部隊という評判(1)

 では、マッキンゼーのコンサルタントたちが世界に与えている、実際の影響はどのようなものなのか。同じ考え方をする人間で構成されたこの比較的小さな集団が権力を固め、アメリカ資本主義という信条を広めていったとき、私たちは何を得て何を失ったのだろうか。この疑問は、いくつかの異なる視点から考えていくべきだろう。

 彼らのクライアント、なかでも企業幹部や役員たちは、経営という不確実性の闇のなかで航海するうえでの信号灯、つまり高くはつくがきわめて知的な相談役を得ることができた。

 マッキンゼーは、「最良事例(ベスト・プラクティス)」という言葉であらわされる、ある種の産業諜報活動を提供する。どういう競争か知りたいなら、マッキンゼーを雇えということだ。結局のところ、彼らは競争相手全員と仕事をしているのだから。逆に言えば、自分の手のうちを競争相手に知られることにもなる。しかしほとんどのクライアントは、この相反関係には価値があると考えた。

 IBMが1950年代にヨーロッパ進出を計画したとき、助力を求めた相手はマッキンゼーだった。ハインツやフーバーなど、ほかの多くの企業もそうだった。そしてその後、ヨーロッパが自信を取り戻したときにはどうだったか。もちろん、そこにもマッキンゼーがいた。

 フォルクスワーゲンやダンロップは、コンサルタントのおかげで壊滅状態から復活した。勤勉で若々しいやり手の一団であるマッキンゼーを使ったことで――ある記者は彼らを「ビジネスの哲人たちの特殊部隊(スワット)」と呼んだ――他社を雇ったときより費用対効果のいい、多くの成果を得たのは確かだ。

 彼らには、適切な時に適切な場所にいるという素晴らしい能力がある――実際、未来が見えるのではないかと思うほど何度も。しかし、真実はもっと複雑だ。彼らは欧米の資本主義史上、最も柔軟なビジネスモデルを作りあげた。彼らはクライアントがまさに買いたいと思うものを、買いたいと思う場所で売った。

 マッキンゼーの名前には大きな影響力があるため、雇うだけで望む効果が得られることもある。2009年、出版界の巨人コンデナスト・パブリケーションズは、マッキンゼーを採用することで事態の重大性を示し、経費を30パーセントも削減することができた。マッキンゼーを雇うという行為は、実用的であると同時に象徴的でもあるのだ。

 もちろん、マッキンゼーのクライアント企業への貢献については、批判もよくある。たとえば、ひとたびマッキンゼーがクライアント企業の内部に入ると、コンサルタントは仕事を通じて重役たちの不安をやわらげるフィードバック・ループを巧みに作りあげるが、実際にはそれだけでなく、ある作家が言うような「将来に続く確実な道という幻想」をも提供している。

 重役たちはコンサルタントの存在に慣れっこになってしまうため、彼らなしでは仕事にならず、5年間の仕事に9600万ドル支払った1990年代初めのAT&Tのような状態にいたることもある。

 このような状況においては、コンサルティング業務に対するクライアントの考えにバイアスがかかり、長期的な結果を出すうえでコンサルタントから自立できず、依存してしまう。言い換えると、彼らが契約という形でひとたび企業と関係を結ぶきっかけをつかむと、ほとんどの場合、そのままなかに入り込んでくる――いわゆる、「晩餐に来る男たち」になるのだ(つまり、そのまま帰らない)。

 マッキンゼーは、このような見解を本当は気にもしていない――彼らはそれを「変革型人間関係(トランスフォーメーショナル・リレーションシップ)」と呼び、真の変化は長期的な関係からのみ生まれると主張している。しかし、マッキンゼーのクライアントの多くは結果を得ないまま、途方もない料金を何年にもわたって支払っているのだ。

次回の掲載は9月30日です。引き続き、9月20日刊行のダフ・マクドナルド著『マッキンゼー――世界の経済・政治・軍事を動かす巨大コンサルティング・ファームの秘密』の序章を公開していきます。


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