髪を後ろで束ねた元商社勤務の「イケメン漁師」に、漁業の傍ら休日はサーフィンに励む「サーファー海女」。さらには、元広告代理店勤務の「イノベーター漁師」、元デザイナーで環境保護活動に取り組む「エコ漁師」。

 彼らは、この5月に結成された「ザ・漁師’s」のメンバーである。減少に歯止めがかからない漁業就労者を増やすべく、漁師に転職して成功した「漁業エグゼクティブ」の面々を集めて、「漁師になろう!」と呼びかけた。

 仕掛人は、全国漁業就業者確保育成センター、水産庁、大日本水産会、全国漁業協同組合連合会といった漁業関連の団体だ。

 冗談のような試みだが、漁業就労者数の減少はそれだけ危機的状況にある。後継者不足から、10年前の28万人が昨年には20万4000人にまで減った。しかもその85%は40歳以上と高齢化している。そこで業界団体は8年前から、東京、名古屋、大阪、福岡などの都市部で転職セミナーを開催。漁師を求める漁協や網元が直接、転職希望者の相談に乗り、漁師になるための研修を実施するなどして人材確保に努めてきた。

 それでもなお、昨年までの転職実績は約270人しかいない。そこで「漁業でもエグゼクティブになれる」とばかりに、漁師への転職成功者を前面に押し立て、JRや地下鉄にも広告を出してアピールに乗り出したというわけだ。5月末に東京・有楽町で開催された最初の転職セミナーには、100席用意した会場に150人以上が参加した。

 しかし、そのうち何人が漁師に転職することか。待遇問題、将来性など課題は山積みであり、今回の試みが人材不足を解消する決め手になるかはわからない。

(『週刊ダイヤモンド』編集部 小出康成)